誤解が多い社会福祉法人の特徴である非営利性とは?
社会福祉法人は利益を目的としない法人と言われますが、利益を追求する株式会社とどのような違いがあるのでしょうか?
時々、社会福祉法人は儲けてはいけないと思っている方がいますが、黒字決算であることは制度上何も問題はないですし、持続可能性の観点から赤字決算より断然望ましいです。
今回は、社会福祉法人の非営利性について4つの特徴から解説します。

目次
社会福祉法人の非営利性の特徴その1
社会福祉法人会計の世界では利益という言葉を一切使用しません。
何故でしょうか?この理由に非営利性の性格が隠されています。
利益という概念は処分されることが前提となっている言葉です。ここでは処分の代表選手の配当をイメージして下さい。利益は配当するための財源という意味になります。
株式会社は利益の追求を目的としますので、出資を受けて利益を出してオーナーである株主に配当を払うために存在しているともいえます。インカムゲインと言われるものです。
一方、社会福祉法人は制度で配当が禁止されています。配当ができない黒字部分は利益とは言えませんので、差額という言葉を使います。 配当(処分)ができない黒字(剰余金)と考えて下さい。
したがって、非営利性の一つの特徴は、黒字を出してはいけないのでなく、黒字を配当してはいけないということになります。

社会福祉法人の非営利性の特徴その2
社会福祉法人に株式はなく、持ち分はありません。社会福祉法人を設立するために提供したお金は、寄付金となり反対給付はありません。社会福祉法人にオーナーは存在できません。
したがって、社会福祉法人には所有権もありませんし、出資した権利の譲渡性もありません。キャピタルゲインと言われるものは存在しないということになります。 もちろん、株主の権利である議決権もありませんし、株主代表訴訟のような賠償請求もできません。
株式会社への出資はこの株式の譲渡益を期待していますので、異なる特徴の一つになります。
社会福祉法人の非営利性の特徴その3
社会福祉法人の残余財産の分配は規制されています。
株式会社の場合、解散した場合の資産は原則として全て株主に帰属します。
社会福祉法人は株主がいないものの、解散はできますので、もし解散した場合には法人の財産をどこかに渡さないといけないことになり、ルールが必要です。
残余財産の分配に関しては、社会福祉法47条によって、定款の定めるところにより処分され、それによらない場合は国庫に帰属することになります。
定款に定める方法は、社会福祉法31条によって社会福祉法人か社会福祉事業を行う者と制限され、社会福祉法人審査基準とモデル定款により、「社会福祉法人並びに社会福祉事業を行う学校法人及び公益財団法人のうちから選出されたものに帰属する」という流れで所轄庁に定款が認可されていると思います。
社会福祉法人は制度上(認可の上で)株式会社と違い、社会福祉法人の財産が個人や株式会社に分配されないようになっていることが異なる特徴の一つです。

社会福祉法人の非営利性の特徴その4
社会福祉法人の非営利性の共通点は、個人(自然人)に利得をもたらさないことと言えます。
この性質は、社会福祉法人が非課税である理由の一つでもあります。
現在の税制は、シャウプ勧告以来、個人に所得が発生することに課税するという法人擬制説によって成りたっています。個人に所得(利得)が発生しないのであれば、課税する必要はないと言え、これは公益法人等の原則非課税説の理由と言われます。
戦後、国会や審議会で社会福祉法人の税制が議論される時に、非営利性があるので税は非課税であると言われるのはこのことです。
非営利性とは、黒字によって個人に利得が生じることがなく、永続的にに社会福祉事業の為に黒字で得た財産が使用される仕組みと言えます。

まとめ
社会福祉法人の非営利性は、
(1) 非営利性の一つの特徴は、黒字を出してはいけないのではなく、黒字を配当(処分)してはいけないということです。
(2) 社会福祉法人へ設立のために出資をしても寄付金となり、持ち分はなく、譲渡性も議決権もありません。
(3) 解散による残余財産は、個人に帰属されることはなく、社会福祉法人並びに社会福祉事業を行う学校法人及び公益財団法人のうちから選出されたものに帰属することになります。それによらなければ国庫に帰属します。
(4) 非営利性の共通点は、個人に利得をもたらさないことと言えます。この性質は、社会福祉法人が原則的に非課税である理由の一つと言えます。
社会福祉法人の非営利性について、解説してきました。この考え方は原理原則ですので、実質的には異なる経済的実態や、法人実在説の様な別の考え方が混ざっていることもあります。
特に、2000年以降に措置制度から利用契約に変わり、第二種社会福祉事業が社会福祉法人でなく株式会社などが運営が認可されるようになったことにより、より複雑化しました。
社会福祉法人の会計や税務を理解するための細かい論点に関しては、スペースの都合で解説できませんが、研修では細かく分かりやすく解説することが多いです。
当事務所は、研修の講師を多く引き受けていますので、社会福祉法人に関する研修や従業員の教育に関して興味がある方は、お気軽にお問い合わせ下さい。
