社会福祉法人が会計事務所と顧問契約を変更する場合の注意点とは?
社会福祉法人が会計事務所を変更する理由は大きく分けて二つあります。
クライアント側が会計事務所の提供するサービスや価格にご不満を持って積極的に変更する場合と、会計事務所側の事情で、高齢による廃業や契約更新ができない事情により消極的に変更する場合です。前者は特にトラブルになりがちです。
筆者が経験してきた会計事務所を変更する場合の注意点をご紹介します。
目次
社会福祉法人が会計事務所を変更する主な理由

筆者は幸運にも今日現在クライアントから一方的に契約の解除をされたことはありませんが、税理士仲間からは解除された話はよく聞きますし、税理士仲介サイトに登録していると毎日のように税理士変更の希望や変更の理由が送られてきます。
筆者が、実際に会計事務所を変更した社会福祉法人から聞いたことのある変更の理由は以下のようなものがありました。
社会福祉法人は会計や税務が特殊なので、対応が難しいと言うのは社会福祉法人側からも税理士側からも聞きますので、株式会社よりも変更の理由は多い印象があります。
(1)社会福祉法人会計に詳しいとは言えず、質問しても的外れは回答をしたり、会計事務所が作成した決算書に誤りがあったりする。
(2)会計事務所の担当が弾力運用通知などの重要な行政通知を理解していないため、話が通じない。
(3)指導検査や会計監査人監査に対応できず、指導内容が改善されず放置される。
(4)納品が遅く期日に間に合わない。理事会や評議員会、監事監査など重要な会議で何をすべきか分かっていない。
(5)消費税や法人税の社会福祉法人特有の知識が弱く、節税などの相談ができない。
(6)業務効率の向上や経営改善の提案がなく、運用に関する相談ができない。
(7)レスポンスが遅く、コミュニケーション能力が低い。言ったことしか対応しない。言ったことすら対応できない。
(8)他の社会福祉法人のやり方や運用を知らず、有効なアドバイスができない。
(9)提供するサービスの割に、年間の報酬が高い印象がある。正直、日頃何をやっているのか分からない。
(10)担当者がコロコロ変わり、引継ぎに不安がある。こちらに向き合っていない印象がある。
同業者としては非常に残念ですが、社会福祉法人は一般税務と異なり、特殊であることから、マッチした会計事務所が見つからずに、お悩みの社会福祉法人は比較的多い印象があります。

会計事務所を変更する場合の注意点
会計事務所を変更せざるを得なくなった場合に、傷を大きくしないために幾つか注意点があります。
会計事務所の変更など滅多にしませんので、初めてのご経験という方も多いと思います。この記事を意識しておいて頂けるとよりスムーズに進められるはずです。
1、制度上の引継ぎ規定がない
公認会計士が行う法定監査の変更については、公認会計士協会が監査人の変更規定を用意しています。
引用元:公認会計士協会 2-24-900-2-20230112.pdf
監査人は前任から後任への引継ぎは必ず行われることになりますので、クライアントはその流れに乗ることができます。
しかし、一般的な会計事務所の業務の変更は、引継ぎ規定がないため、クライアントが自ら引継ぎの流れを作らないと、引継ぎなしで後任に業務をお願いしなければならなくなります。引継ぎ不足によるトラブルの責任はクライアントが負うことになりますので注意が必要です。
2、会計ソフトやデータの所有権は社会福祉法人にあるのか?
会計システムとデータが自法人の管理下にある。或いは、データ移管ができれば一番良いのですが、そうでない場合は、問題になりがちです。
社会福祉法人が会計ソフトを持たずに、会計事務所に記帳代行をお願いしていた場合は特に注意が必要です。
会計ソフトが会計事務所のもので、過去のデータもそこの中にあると、契約を解除した瞬間に、アクセスできなくなってしまうことがあります。
会計事務所のソフトが、汎用性のある会計ソフトでないカスタマイズされたオリジナルソフトの場合、機械的なデータ移行や環境の復元ができない場合もあります。 最悪の場合、一から環境を再現しますが、かなりの労力が必要になります。

3、固定資産管理情報は要注意
会計ソフトがない場合は、紙で納品された情報から環境を再現することがあります。この場合、新たな会計ソフト内に最低限のマスターの設定とある年の期首残高を手入力すれば、スタートできますので、大変ですが環境再現の可能性はあります。
しかし、固定資産台帳は、紙で納品された情報に必ずしも必要な情報があるとは限りませんので、環境の再現ができない場合があります。固定資産情報は、件数と稼働させるための情報量が多いので、特に注意が必要です。
4、期首残高確定の際の注意点
会計ソフト情報の移管が期待できない場合は、新たに手入力で貸借対照表の期首残高の確定が必要です。
その際、補助科目元帳があれば、補助科目毎に残高と補助科目マスターを作れますので、数値の正確な継続性が期待できる可能性があります。
ただし、補助科目元帳ない場合や、科目明細がない又はまとまっている場合は、期首残高が科目合計額となってしまい、その後の営業取引で詳細が区別できなくなるため、別途管理する方法を検討する必要があります。
正確な期首残高情報が分からない場合、勘定科目の合計額は分かっても、勘定科目の内訳明細が作成できず、正確な期末残高の検証ができなくなってしまう可能性があります。
前会計事務所から補助科目元帳を入手することをお勧めします。

5、契約の空白期間をなるべく作らない
旧会計事務所の契約終了前に新任の会計事務所の契約をすることが望ましく、空白期間を作ることはお勧めしません。空白期間が長ければ長いほど新任への負担が大きくなり、引き受け手が少なくなります。
引継ぎ情報不足から、新任の会計事務所ともトラブルになると更に傷が深くなります。
引継ぎの方法は色々ありますが、可能であれば多少のコストがかかっても引継ぎ期間を設けて、業務の内容を旧会計事務所に聞ける環境の構築をお勧めします。
6、過去の決算書に間違いがある
こちらも、よくある話で、会計事務所が作成した決算書に間違いがあることが分かっていて契約を解除する時に、そのまま間違えた状態で、新任が決算書を作成するとその決算書も間違えた決算書になりますので、過去の決算書を作り直さなければならない場合があります。
この場合、決算理事会や評議員会で再議案をするという制度上の問題と、過去の決算書の修正費用を誰が負担するのかという問題が発生します。 この辺りの問題も、契約解除前に旧会計事務所と折り合いを付けておく必要があります。

7、引継ぎの落とし穴
引継ぎをする上で、過去の決算書や申告書の内容を確認しますが、一般的には3年分位を確認します。基本的な確認はそれで十分ですが、よくあるトラブルとして、それ以前に税務署に提出した届出書情報の引継ぎがされずに、誰も分からない状態で業務が始まり、後で気付くという事例です。
例えば初歩的な例として、3年よりも前に消費税の課税事業者選択の届け出が出ていることが引継ぎされずに、基準期間における課税売上高が1,000万円以下となったので、納税義務がなくなったと思い申告をしなかったら、後日税務署から申告漏れの指摘を受けるなどです。
過去の税務署への届け出情報の引継ぎは、特に注意して下さい。

まとめ
会計事務所を変更する理由は、本当にたくさん聞きますし、社会福祉法人と会計事務所のトラブルも残念ですがたくさん聞きます。
一番厄介なのは、失敗を繰り返し、お金では解決できない程に状態が悪化してしまうケースです。いくらお金を貰っても対応できないとなると、難民化してしまい、結局誰も手出しできなくなってしまいます。
会計事務所と揉めてしまった場合は、なるべく傷が大きくならないような配慮が必要です。制度上、引継ぎ規定がありませんので、クライアント主導で引継ぎ期間と引継環境を構築することをお勧めします。
引継ぎの注意点としては、
(1)会計ソフトやデータの所有権と環境の再現について
(2)固定資産管理情報の再現について
(3)過去の決算書の誤りの修正について
(4)契約の空白期間をなるべく作らずに引継ぎ環境を構築する
(5)税務署への届け出情報に注意
会計事務所との契約変更トラブルは、社会福祉法人に限らず、大変な事態になりがちです。
最終的に困るのは、クライアントである社会福祉法人ですので、できる限り、傷を広げないような配慮をお勧めします。
当事務所は、社会福祉法人の会計事務所の変更について、たくさんの経験があります。
既に他の会計事務所と契約をしてしまっている(当事務所と顧問契約をするつもりがない)場合でも、相談に応じることができる場合がありますので、お困りの社会福祉法人の方はお気軽にご相談下さい。
