社会福祉法人の指導監査(会計)でよく聞かれること
社会福祉法人の実務上、指導監査と指導検査という言葉は併用されています。
筆者の社会福祉法人の指導監査の立会い経験は、以前は経理部の職員や管理職として約20年、現在も顧問税理士として増え続けていますので、通算にすると100回を超えており、色々な思い出があります。
今回は、社会福祉法人の指導監査の会計面でよく聞かれる頻出論点をご紹介します。
社会福祉法人のオープニングスタッフの方々や社会福祉法人への転職等で指導監査の経験がない方は予行演習にもなりますので有益です。
目次
指導監査とは?

指導監査の種類
前提となりますが、通常の一般監査と不正などが起こった特別監査があります。今回は多くの法人が関係する一般監査を対象とします。
一般監査は大きく分けて本部を対象とした法人監査と事業所を対象とした施設監査があります。それぞれ根拠法が異なり、法人監査は社会福祉法で施設監査は各個別法がその根拠となります。
今回は、施設監査を対象としますが、施設監査といっても障害福祉施設と児童福祉施設は根拠法が異なりますので通知も違いますし、会計のルールも違います。
更に、児童福祉施設といっても認可保育園とこども園は通知が違いますし、企業主導型保育や指定管理による委託された保育園は、監査する部署が違うこともありますし、監査内容も違います。
監査する側が異なる組織になることもあり得ます。同じ施設に市区町村も入りますし、都道府県も入ります。施設整備補助事業などの国庫に関する事業をすれば国が直接施設に監査に入ることもあります。指定管理などの場合は、自治体が設置した監査委員会が監査することもあるため自治体も監査の対象になる監査もあります。
指導監査の頻度も、自治体により差があり、毎年のように行う自治体もあれば、ほとんど行わない自治体もあります。特に、認可保育園は指導監査の頻度は高い傾向にありますが、保育園監査は保育分野が中心で、会計分野は隔年など若干頻度が低くなる傾向があります。
行政の指導監査といっても色々な種類があるのですが、今回は、厚生労働省の指導監査ガイドラインにある一般的な施設監査で、どこの施設でもよく聞かれる事項に絞ってご紹介します。
(参考)厚生労働省ホームページ

指導監査で見られるもの
指導監査が決まると、通常自治体から案内が来ます。その際に、リストが送られ事前に資料を送ってもらいたいと要請を受けることがあります。場合によっては、事前に質問シートが来て、回答して欲しいと前のめりな要請を受けることもあります。
必要書類には色々な資料が記載されますが、必ず経理規程は要求されます。
経理規程は、指導監査の基本中の基本ですので、全社協のモデル経理規程例の条文番号に沿って頻出論点をご紹介します。
経理規程:1章の総則
総則の章に関しては、直近の決算書がきちんと揃っているかを確認されます。特に附属明細書の一部がないとか、拠点が正しく設定されていないとか、集計が漏れている等の帳票の数と体裁を見られます。
帳票と附属明細書の整合性の質問
整合性の論点で、正しく処理しているのに何度も聞かれる質問を紹介します。
国庫補助積立金取崩し額という科目があります。事業活動計算書の金額と附属明細書の固定資産の明細書の金額が合っていませんという指摘です。
現行会計では、固定資産以外(10万円未満の初度費用)についても、国庫補助金等特別積立金に含めます。10万円未満の初度設備に対応する国庫補助金等特別積立金は、初度設備を購入した年度に国庫補助金等特別積立金を積んだ上で、同年度に取崩しを行います。したがって、事業活動計算書の金額と固定資産明細書の金額は適切な処理でも合わないことはありえるのです。
以前の会計基準では、国庫補助金等特別積立金は固定資産に限っていたので、ズレる可能性がありませんでしたので誤解されがちですが、そのように説明する必要があります。
会計責任者及び出納職員の辞令の質問
お金を扱う役職は非常に重要で事故が起きやすいため理事長が直接任命します。辞令など理事長が直接任命したという証拠を確認されます。
指導監査ガイドラインでは、内部統制上の観点から、会計責任者と出納職員の兼務はできないことになっています。
経理規程:4章出納

現金を直接扱うので最も細かく見られる論点と言えます。
収納した現金の保管の質問
経理規程に定めた日数以内に金融機関に預け入れているか見られます。入金した金額を直接支出に充てることはできません。小口に入れたり、金庫の中に長期間保管していたりするのもNGです。
残高の確認の質問
残高の一致だけでなく、出納職員と会計責任者の印鑑が両方あるか確認されます。1年間全て見る検査官が多いです。
月次報告の質問
経理規程に定めた日までに会計責任者が理事長に試算表が提出されているか確認されます。印鑑があるか?提出された日付があるか?など見られます。
経理規程:8章固定資産

固定資産も金額が大きいので要注意論点です。 固定資産台帳は比較的見られます。図面や写真があり整合していると非常に信用度が上がります。
取得・除却の質問
稟議書を見られます。特に除却は漏れがちなので要注意です。
棚卸残高の質問
期末有高報告書を求められます。3月末時点で決算書は完成していませんので、工夫するしかありません。チェックをした形跡を残した方が無難です。経理規程にある固定資産管理責任者や理事長の印鑑も必要です。
経理規程:10章決算
決算は幅広く見られます。自治体によっては、決算書の数値を独自のチェックシートに転記して、エラー状況から質問してくることもあります。
注記の質問
正しく注記があるかだけでなく、法改正によりアップデートできているか見られます。 重要な後発事象の後に合併及び事業の譲渡若しくは事業の譲受けが入っていない法人は改定が必要です。
減価償却や引当金など直接法の場合と間接法の場合で、注記の仕方が異なりますので、注意が必要です。
経理規程:12章契約

資金流出防止の観点から、比較的見られる項目です。
随意契約の質問
何かを購入する場合は、原則として理事会で決議しますが、定款細則などで定める一定の場合は理事長の決裁で行うことができます。
次に理事長決裁で行う場合にも原則的には入札手続きによることとなりますが、経理規程に定める一定の場合には随意契約で行うことができます。
稟議書に許容される随意契約の理由がきちんと記載されているのかを見られます。特に金額基準を採用した場合に経理規程が定める相見積もり数がある場合は、それも見られます。
令和8年4月1日以降、「物価高騰の影響で社会福祉法人における入札契約等の取扱いについて」の通知にある価格による随意契約の基準が変更になる予定です。経理規程と乖離するため、変更を指導される可能性が高いです。
・工事又は製造の請負250万→400万
・食料品・物品等の買入れ160万→300万
・上記に掲げるもの以外100万→200万
契約書の作成の質問
契約書そのものを確認されます。経理規程に瑕疵担保責任となっている法人は民法が改正されていますので契約不適合責任に変える必要があります。
よくある現場の誤解は、契約書というお互いに押印した書面がないといけないと思い込んでいる方がいますが、例えば、ネットでお店の規約に承認して購入することがあると思いますが、それも契約です。稟議書があって規約をプリントアウトして購入履歴が示せれば問題ありません。
契約書の省略の質問
例えば、経理規程にある100万円以下の契約は確かに契約書を省略することはできます。ただし、省略する場合は、軽微な場合を除き、請書その他これに準ずる書面を徴するとありますので要求されます。
取引条件が全く分からないのは不味いので、何らかの記録を入手しましょう。
定期的な契約の見直しの質問
既存契約論点です。契約が自動更新の場合によく言われます。契約はたくさんありますので、自動更新契約を把握して計画的に見直しを行う必要があります。
定期的の意味は、3年から5年以内に見直している証があれば良いという検査官がほとんどです。全てを一斉にやらなくても大丈夫なので、金額の大きいものから定期的に行っているやり方を説明しましょう。

まとめ
(1)指導監査は種類があり、種類によって見られる個所が異なります。
(2)指導監査の会計分野の中心は経理規程です。
(3)各章ごとに頻出論点は毎回見られる可能性があります。チェックリストを使う検査官が多いです。
(4)3月末の実査は、その時に決算書は完成していませんので工夫が必要です。チェックの証跡を残すように指導されることがあります。
(5)小口現金周り・契約や定期的な見直しは良く見られます。最低限、説明できるように準備しましょう。
指導監査は、多くの自治体が独自のチェックリストを使用して行います。役所内で会計に関する担当者は少数で、毎回同じような個所を見ますので、頻出論点を押さえていくことは賢明な方法です。
疑義があった論点に関しては、当日又は早い段階で解消することが望ましいです。役所内の審査が通り、一旦文書指摘として公文書が出てしまいますと、取り消すのは大変だからです。
文書指摘は情報公開の対象で、社会福祉法人にとって良いことはありません。 例えば、改善報告も必要ですし、新規施設の開設の認可や福祉医療機構の借入に不利に働くことがあります。
指導監査の現場では、多くの場合、法人側に説明責任があるという前提で質問されます。法人の説明や資料の提供方法が良くなかったため、自治体に不必要に誤解されて文書指摘を受けた例を数多く見てきました。
当事務所は、数多くの立ち合いや改善の実績があります。指導監査に不安のある法人は、当事務所にご相談ください。
