ポイント解説!社会福祉法人会計と企業会計の違いとは?
社会福祉法人で経理部を任されると、経理職員の採用や部下の教育が重要な仕事になります。
実際に経理職員の採用活動をすると分かりますが、転職市場に社会福祉法人会計の経験者はほとんどいません。現場の皆さんは苦労されているはずです。
ではどうするか?企業会計の経験者に社会福祉法人会計の知識を職員教育で補い「戦力に育てる」という選択にならざるをえません。
でも何が違うか?教える側の方々が「企業会計と何が違うのか」を理解しなければ、効果的な教育ができません。
違いのポイントは以下の3つです。
1,拠点単位の管理
2,資金収支計算の仕組み
3,内部取引の厳格な規定
今回は、企業会計と社会福祉法人会計の違いを解説しますので、これらを意識して読んでいただけると効果的です。
目次
企業会計と社会福祉法人会計の制度の違い

まず、法律の建て付けについてです。
企業会計にも社会福祉法人会計にも法律上の計算規定があります。前者は会社法や金融商品取引法の中にあり、後者は社会福祉法の中にあります。当然、その計算規定に従います。
各法令自体には、分量的に詳細な規定は書けませんので各々会計基準という規定を用意しています。前者は企業会計原則で後者は社会福祉法人会計基準です。
この二つの決定的な違いは、前者はルールであって強制力はなく、考慮されるべきもので法令ではありません。後者は省令で強制力のある法令です。そういう意味でも、社会福祉法人会計は厳格と言えます。民間の法人に公費を入れるために国から強い管理を受ける必要があることが主な理由です。
次に、帳票の構造についてです。
かつては「収支計算」のみを行う文化があり、平成12年の会計基準の改正までは減価償却も行わないなど単式簿記に近い運用もされていました。しかし現在は改正を重ね、「損益計算(事業活動)」と「資金収支」の両面管理が義務付けられています。
これにより、現在の社会福祉法人は以下の体制を維持しなければならず、企業会計よりも管理コストが格段に重くなっています。
| 比較項目 | 企業会計 | 社会福祉法人会計 |
| 根拠法令の性格 | 会計慣習(ルール) | 省令(法令・強制力あり) |
| 主な計算書類 | 貸借対照表・損益計算書・CF計算書 | 貸借対照表・事業活動計算書・資金収支計算書 |
| 管理の単位 | 法人全体(任意で部門別) | 事業区分・拠点区分・サービス区分(必須) |
| 記帳の仕組み | 一取引一仕訳 | 一取引二仕訳 |
| 資金の概念 | 現金および現金同等物 | 支払資金(流動資産−流動負債) |

企業会計の管理会計が社会福祉法人では制度会計の中にある
制度会計とは、どの法人も共通して従わなければならない制度上の要請で、会計的には大枠で幹の部分と言えます。一方、管理会計はその法人の実情により業績管理目的など、会計的には詳細な枝葉の部分で、法人が自由に設定できる性質のものです。
例えば、内部取引といわれる、法人内部の取引は、業績管理目的のためのもので、外部と取引していないため、一般的には自由に設定して良い管理会計です。
しかし、社会福祉法人会計では、その内部取引の科目や相殺方法まで制度会計で規定しています。社会福祉法人会計は本来自由に行って良いものを、細かく制度で規定していますので、結果的に、難易度が上がり分かり難くなっています。理由は、公費は拠点単位で入金され、異なる財源毎に国が管理する必要があるためです。
筆者が経験してきた決算書の点検業務で一番トラブルが多いのが、この内部取引の管理です。
内部取引は、相殺消去されるため、何か間違えるといわゆるバランスアウト(貸借不一致)状態となり帳票が整合しなくなるためです。

帳票の量が多く勘定科目数が多い
企業会計は一つの法人を細かく分解(細分化)していくイメージで、分解先の規定はありません。なぜなら法人単位が適正ならどのように分解しても問題が生じないからです。プロセスは問われません。
一方、社会福祉法人は事業区分、拠点区分、サービス区分という3つのステージがあり、一つの拠点が一つの法人が如く細かい規定があり積み上げ方式です。プロセスが問われます。
理由は、税金の財源毎に管理したいという国の要請(公の支配下にいれる必要性)があるためです。したがって、帳票数が異常に多いのが特徴です。
・第1号〜第3号様式に加え、第1様式〜第4様式(計12帳票が基本)
・拠点が増えるごとにこれらが倍増
・附属明細書も拠点ごとに作成
1拠点当たり概ね20ページ程度は増えていくことになりますので、単純計算で、100拠点の法人は決算書が2,000ページものボリュームになります。
また、社会福祉法人会計は、大区分の勘定科目は作成することができず、企業会計のような自由度はありません。勘定科目は会計基準の別添えという形で国に定められ、非常に数が多いのが特徴です。主な理由としては、歴史の異なる複数の会計基準を統合したため、累積的に増加したと言えます。

会計帳票の構造が異なる
社会福祉法人会計を初めて見た人が、最初に悩むのが資金収支計算書です。「これは一体どのような帳票なのだろうか?」と
企業会計のキャッシュフロー計算書に近い印象を受けると思いますが、決定的な違いがあります。
(1)仕訳が「2階建て」になっている(一取引二仕訳)
企業会計では、キャッシュフロー計算書を「仕訳」で作ることはありません。しかし、社会福祉法人会計では、一つの取引に対して「事業活動(損益)」と「資金収支(お金)」の二つの側面から同時に仕訳(記帳)を行う「一取引二仕訳」がルールです。
現在のソフトはこれらを自動生成するため意識しにくいですが、内部的には「似たような総勘定元帳が二つ」動いています。企業会計経験者が「なぜ元帳が二つもあるのか?」「似たようなことを何故二回やるのか?」と混乱する最大の原因はここにあります。
(2)「支払資金」は通帳の残高と一致しない
もう一つの壁は、資金の捉え方です。
・企業会計(C/F): 「現金預金」そのものを説明している。通帳残高と一致するので分かりやすい。
・社会福祉法人(資金収支計算書): 「支払資金」という差額概念。一致するものがない。
「支払資金 」= 流動資産※- 流動負債※(※棚卸資産や引当金などを除いた、動かせるお金を想定した特定の範囲)
この「支払資金」という数値は、特定の科目の残高とは一致しません。そのため、企業会計に慣れた人ほど「結局、どの残高を説明しているのか分からない」という迷宮に迷い込んでしまうのです。
また、キャッシュフロー計算書は表示方法として直接法と間接法が認められますが、資金収支計算書はキャッシュフロー計算書の直接法に似たレイアウトの一択になり、レイアウトに選択の余地はありません。

就労支援会計基準の内包による複雑化
障害福祉施設で行う生産活動について、平成18年に就労支援会計基準が制定されましたが、平成28年の現行会計は、就労支援会計基準をそっくり受け入れましたので、内包されました。就労支援事業(B型など)における作業原価の算出が、企業会計でいうところの工業簿記(原価計算)に近い複雑さを持つようになり、更に下記の部門管理を細かく求められるようになりました。
企業会計でいう製造原価報告書と販売費及び一般管理費の部門管理が複雑化して、法令上のサービス区分に加えて、行う仕事の区分毎に分解する2層構造になったため、管理や区分が難しくなりました。企業会計にはそのような、細かい部門管理はなく、附属明細書もありませんので、社会福祉法人会計独特の論点になります。この原価計算が利用者に支払う工賃の適正性に利用しますので、配賦計算が複雑になりがちで厄介です。
次に、行政通知の論点に目を向けると、事業ごとに通知が出ており、従わなければなりません。例えば、高齢者施設と認可保育園を行う法人は別の通知に従いますので、同一法人内であっても会計処理や使える勘定科目も違います。
例えば、会計基準の勘定科目表に渉外費という科目があり、高齢者施設は使用できますが認可保育園では使用できないなど、通知を見ずに会計基準だけを見て運用すると、誤解してしまう論点がたくさんあります。

まとめ:社会福祉法人会計は「教育」と「専門性」の壁が極めて高い
今まで見てきた通り、社会福祉法人会計は企業会計の延長線上にはありません。別物と捉えた方が良いと思います。
(1)「法令」としての強制力: 企業会計原則のような考慮されるべき「ルール」ではなく、強制力のある「省令」です。
(2)異常なまでの帳票量: もし100拠点あれば決算書は2,000ページ位になります。このボリュームをミスなく管理する仕組みが必要です。
(3)独特すぎる「一取引二仕訳」: 資金収支と事業活動を同時に追う構造は、企業会計経験者が最もつまずくポイントです。
(4)事業ごとの行政通知: 会計基準だけでなく、高齢者・保育といった事業別の通知が会計に影響しますので把握しなければなりません。
社会福祉法人の現場が直面する「現実」
これほど複雑な仕組みを、未経験の職員に一から教育するのは至難の業です。 実際に、筆者が地域の税理士会で話を聞いていると、多くの税理士が「社会福祉法人は専門外だから分からない」「苦手意識がある」と口を揃えます。残念ですが、プロであるはずの税理士でもその様子ですから、会計事務所から適切な支援を受けられず、いわゆる「会計難民」となってしまっている社会福祉法人が後を絶ちません。
貴法人の「戦力化」と「守り」を実務のプロがサポートします
社会福祉法人の経理は、単なる後追いの事務作業ではありません。公費を扱う以上、「正しく処理すること」そのものが法人の信頼と経営を守る土台となりますし、自分たちが望む会計処理をすることを予想して経済的実態を変えることも可能です。
当事務所は、単なる会計処理や税務申告の代行にとどまらず、以下のサポートを得意としています。
(1)経理職員の採用・教育支援: 元・管理職の視点から、企業会計経験者を「社福の即戦力」に育てるカリキュラムを提供します。
(2)内部取引・拠点管理の適正化: 資金繰りに直結するのに、多くの法人がつまずく内部取引を整理し、実務に即して指導します。
(3)複雑な原価計算・工賃管理: 就労支援事業等の厄介な部門管理や配賦計算も、仕組みから構築します。
「今の会計事務所に相談しても明確な回答が得られない」「新しく入った経理職員をどう教育すればいいか分からない」「経理職員が辞めてしまって業務が止まってしまう」「内定を出しても辞退が続いている」「指導監査で指摘を受けたが直し方がわからない」などとお悩みの理事長・事務長様。
まずは一度、お気軽にご相談ください。貴法人の状況に合わせた、最適な解決策を共に考えます。
