社会福祉法人の繰替使用(資金の貸付)と年度精算義務とは
社会福祉法人は制度上、法人の外部への貸付けは一切認められていません。
一方、法人内部での拠点間の貸し借りは、一定のルールの範囲で行うことができます。拠点間の貸付を社会福祉法人会計の世界では「繰替使用」と言います。
もし、赤字拠点があったり、施設を新規で開設したりする場合は、何らかの資金の手当てが必要ですが、銀行から借入をしないのであれば、法人内部で拠点間の資金の融通が必要です。
この記事を読めば、正しい理解と上手な対処法を知ることができます。
目次
基礎知識

現在の資金使途規制は、平成12年の介護保険制度の導入により措置費制度から利用契約制度に変わったことにより、大きく変わりました。
現在の規制根拠は、個別に定められているものを除き、以下の5つの通知であり、該当する施設の方々は、それぞれの要点を理解する必要があります。
規制内容は基本的には似ていますが、通知上は3つのタイプに分かれています。
(1)措置費系通知(原則貸付禁止。年度精算義務あり。)
(2)介護保険系通知(貸付可能。年度精算義務はあるが、同一財源に限り精算義務なし)
(3) 障害福祉系通知(貸付可能。年度精算義務あり。)
(4)障害児入所系通知(貸付可能。年度精算義務あり。)
(5)認可保育所系通知(原則貸付禁止。年度精算義務あり。)
*上記の通知上可能でも、補助金等に係る法令又は補助金等の要綱若しくは、自治体等の実施主体との契約等(協定書など)に資金の流用を認めない旨の定めがある場合は、その定めが優先され、その事業に係る資金を他の施設や公益事業等に貸付けることはできません。

措置費系の通知
平成16年3月の「社会福祉法人が経営する社会福祉施設における運営費の運用及び指導について(局長通知)032001号通知と「同(課長通知)」032002号通知があり、ここでは以下「措置費通知」と言います。
現在の社会福祉法人は措置費系施設の数は多くありませんが、措置費通知は、資金使途の従来型の基本的な通知であり、規制が強く、基本的には拠点間の貸し借りはできないという前提です。
通知の対象施設
以下の措置費支弁対象施設です。
(1) 生活保護法による保護施設
(2) 身体障害者福祉法による身体障害者社会参加支援施設(視聴覚障害者情報提供施設に限る。)
(3) 老人福祉法による老人福祉施設(養護老人ホームに限る。)
(4) 売春防止法による婦人保護施設
(5) 児童福祉法による児童福祉施設(保育所を除く。)・児童自立生活援助事業を行うための施設(以下「自立援助ホーム」)及び小規模住居型児童養育事業を行うための施設(以下「ファミリーホーム」)
規制内容
運営費の同一法人内における各サービス区分、各拠点区分及び各事業区分への資金の貸し借りについては、その法人の経営上やむを得ない場合に、その年度内に限って認められます。したがって、資金を貸したままの状態で決算を終えることはできません。
また、経営上やむを得ない事情も想定されており、真にやむを得ないと認められるもので、かつその年度内に返済が確実なものしか貸付けることはできません。
【やむを得ない例】
(1) 補助金収入(措置費を含む)の遅れ等における資金不足が生じた場合
(2) 都道府県補助金収入が予定より遅れたための資金不足が生じた場合
(3) 収益事業において一時的な資金不足が生じた場合

介護保険系通知
平成12年3月の「特別養護老人ホームにおける繰越金等の取扱い等について」188号通知が根拠になります。
通知内は、第1の平成11年度末までと第2の平成12年度以降に分かれていますが、第2の内容が重要です。この通知の対象施設は、基本規制である措置費通知は適用されません。
対象施設
特別養護老人ホームであって、介護保険法に定める指定介護老人福祉施設の指定を受けた施設だけです。
ただし、老人福祉法第20条の6に規定する経費老人ホームについては、原則として措置費通知は適用されず、この通知の第2の内容が準用されます。
また、指定居宅サービス事業等の実施に当たっても、この通知の第2の内容が準用されます。
規制内容
施設報酬を主たる財源とする資金を他の社会福祉事業等又は公益事業若しくは収益事業に一時繰替使用を行うことができます。
ただし、その法人が行う指定介護老人福祉施設以外の介護保険法第23条に規定する居宅サービス等の事業へ繰替使用した場合を除き、繰替えて使用した資金はその年度内に補てんしなければなりません。
したがって、同一財源を除き、貸したお金については、年度精算義務があることになります。

障害福祉系通知
平成18年10月の「障害者自立支援法の施行に伴う移行時特別積立金等の取扱い」1018003号通知が根拠になります。
この通知の第2にある平成18年10月以降における運用上の取扱いが重要です。この通知の対象施設は、基本規制である措置費通知は適用されません。
障害者自立支援法は廃止されていますので、現在のいわゆる障害者総合支援法に読み替える必要があります。
対象施設
指定障害者支援施設等(自立支援法5条に規定する事業を行う施設等)
規制内容
自立支援給付費を主たる財源とする資金を他の社会福祉事業又は公益事業等若しくは収益事業に一時繰替使用を行うことができます。
ただし、繰替えて使用した資金はその年度内に補てんしなければなりません。
この通知では、介護通知と異なり、同一財源の年度精算義務の宥恕に関して記載がありません。
注意点として、販売されている解説書やネット上の解説で、障害者総合支援法の指定障害者福祉サービス等以外に繰替使用した資金のみ年度精算の義務があると説明されています。
つまり、介護通知と同様に、同一財源は年度精算の義務はないという解釈です。
制度設計を重視し、同一財源なら年度精算をしなくても良いという前提なら、そのような解釈も可能だとは思いますが、東社協福祉施設経営相談室だより№92平成23年7月27日の公開情報では、東京都福祉局の解釈は、以下のようなもので同一財源でも年度精算義務があるとされています。
| (障発第 1018003 号通知の第2の3の(2) 資金の繰替使用) 自立支援給付費を主たる財源とする資金を他の社会福祉事業又は公益事業若しくは収益事業へ一時繰替使用することは、差し支えない。 ただし、繰替えて使用した資金は、当該年度内に補てんしなければならない。 |
| Q2 障発第 1018003 号の第2の3の(2)繰替使用の中で、「他の社会福祉事業」との表記が ありますが、ここでいう他の社会福祉事業とは、 ①当該指定障害者支援施設等以外の指定障害者支援施設等を含んだ社会福祉事業 ②当該指定障害者支援施設等以外の指定障害者支援施設等を含まない社会福祉事業 のいずれでしょうか。 例えば、障害者支援施設が、同一法人が経営する福祉ホームへ繰替(繰入)使用を行った場合は指定障害者施設間においては財源が同一であるにも関わらず、①の解釈によれば年度内に補てんしなければならないことになりますが、 ②の解釈によれば年度内に補てんしなくても差し支えないことになります。 ②の解釈と思われますがいかがでしょうか。ご指導方お願い申し上げます。 A 障発第1018003号 第2の3(2)における「他の社会福祉事業」は、限定されていないため、ご照会いただいた文書では、①に該当します。 また、繰替使用した資金は、当該年度内に補てんしなければならないことになっているため、 例で挙げられている福祉ホームについても年度内に補てんしなければなりません。 引用:東社協福祉施設経営相談室だより・№92平成23年7月27日 |
介護通知と同様という制度設計上の前提により②と解釈し精算不要と解説されているものもありますが、東京都福祉局のように通知の文言を①と解釈し、同一財源内でも精算を求める所轄庁も存在します。
この「見解の相違」こそが、社会福祉法人会計が最も難しいと言われ、注意しなければならない点です。
自法人の所轄庁が「通知の文言(形式)」を重視するのか、「会計の合理性(実体)」を重視する見解なのかを確認しておくことが、決算でのトラブルを防ぐ唯一の方法です。

障害児入所系通知
平成24年8月「指定障害児入所施設等における障害児入所給付費等の取扱いについて(局長通知)」0820第8号と「同通知の施行について(課長通知)」0820第2号が根拠になります。
障害福祉系通知の内容と同じなので、合わせて障害系として説明する方もいますが、厳密にいうと別規制です。この通知の対象施設は、基本規制である措置費通知は適用されません。
対象施設
児童福祉法第24条の2第1項に規定する指定障害児入所施設等、同法第6条2の第3項に規定する指定医療機関及び同法21条の5の15第1項に規定する障害児通所支援事業所等です。
規制内容
障害児入所給付費等を主たる財源とする資金を他の社会福祉事業又は公益事業等若しくは収益事業に一時繰替使用を行うことができます。
ただし、繰替えて使用した資金はその年度内に補てんしなければなりません。
この通知は、介護通知と異なり、障害通知同様に同一財源の年度精算義務の宥恕に関しての記載がありません。
注意点として、上記の障害通知と同様の一般的な解説本と東京都福祉局の見解が異なっていますので、該当している施設は、所轄庁に確認した上で、決算を終えることをお勧めします。

認可保育所系通知
平成27年9月「こども・子育て支援法附則第6条の規定による私立保育所に対する委託費の経理等について」以下254号通知、「同取扱いについて」以下255号通知、「同運用等について」以下256号通知の3つの通知が根拠になります。3つの通知を総称して以下「弾力運用通知」と言います。最も規制の厳しい通知になります。
繰替使用で重要な通知は254号通知と256号通知になります。
254号通知の詳細に関しては以下の記事を参考にして下さい。
引用:ズバリ認可保育園の弾力運用通知(254通知)のポイント!|立花淳一税理士事務所
規制対象
こども・子育て支援法附則第6条第1項の規定により、市区町村から私立保育所に支払われる委託費です。いわゆる認可保育園が対象になります。
規制内容
委託費の同一法人内における各施設拠点区分、本部拠点区分又は収益事業等の事業区分への資金の貸し借りについては、その法人の経営上やむを得ない場合に、その年度内に限って認められます。したがって、資金を貸したままの状態で決算を終えることはできません。
また、経営上やむを得ない事情も想定されており、真にやむを得ないと認められるもので、かつその年度内に返済が確実なものしか貸付けることはできません。
【やむを得ない事例】
(1) 補助金収入(措置費を含む)の遅れ等における資金不足が生じた場合
(2) 都道府県補助金収入が予定より遅れたための資金不足が生じた場合
(3) 収益事業において一時的な資金不足が生じた場合

指摘された時の対処方法の例
年度精算義務が指摘された場合に、どのように対処するべきか?
借りた拠点に資金があれば、その資金で返済すれば良いのですが、資金がないから借りているわけですから通常は返済原資がありません。黒字拠点からお金を集める以外に下記のような例もあります。
【運営資金を拠点で借りてしまっているケース】
返済原資がなくても対策できるケースは、拠点に帰属していた運営資金借入金を全て本部に借り換えをして、本部から各拠点に資金を貸し付ける形にすれば解消する場合があります。
本部は規制がなく、どこの拠点に資金を貸しても決算を迎えることができるためです。ただし、借入は理事会の決議議案で、予算の手当てが必要な場合があります。
【黒字拠点に積立資産があるケース】
どうしても資金が不足する場合は、金融機関から一時的に決済資金を借りる必要があります。
この場合に、不足拠点で資金を借りる方法もありますが、積立金や定期がどこかの拠点にあれば、その預金を担保に金融機関と当座貸越契約を締結することをお勧めする場合があります。
例えば、3月31日にネットバンクで本部拠点の当座貸越口座から不足拠点に資金を送金して、4月1日に当座貸越口座に戻せば(返済すれば)、理論上は、1日分の利息だけで年度精算義務が果たせる可能性がありますし、臨機応変な対応が可能です。
当座貸越契約の維持は、コストがかかりませんので、結果的に使わなくて済んだらそのままの状態で問題ありません。
この場合、当座貸越契約による送金も本部拠点の借入金とみなされる可能性がありますので、理事会の決議が必要と思われます。
また、措置費施設や認可保育園はやむを得ない場合であっても、その年度内に返済が確実なものしかそもそも貸付けることはできませんし、自治体によっては実態を重視する判断をされる可能性もあります。実施前に確認をお勧めします。

まとめ
社会福祉法人が行う内部の資金貸付の全容を解説してきました。
(1)措置費系通知(規制強)は、措置費施設が対象で規制の基本です。やむを得ない場合に、返済が可能な範囲で繰替ができ、年度精算義務があります。
(2)介護保険系通知(規制弱)は、繰替使用ができますが、同一財源を除き年度精算義務があります。
(3)障害福祉系通知(規制中)は、繰替使用ができますが、年度精算義務があります。
(4)障害児入所系通知(規制中)は、繰替使用ができますが、年度精算義務があります。
(5)認可保育所系通知(規制強)は、措置費通知と類似していますが、やむを得ない場合に、返済が可能な範囲で繰替ができ、年度精算義務があります。
資金が不足した場合に、黒字拠点から資金を集める以外に、拠点に帰属していた金融機関から資金の借入を本部に付け替え(借り換え)をして対策できる場合があります。また、どうしても借りなければならない時に、当座貸越契約により最低限の利息で臨機応変に対応できる可能性もあります。
記事の内容を把握しておけば、拠点間の貸し借りを行うことができます。ただし、内部取引は貸し借りだけでなく、別規制の繰入も存在しますので、併用して検討する必要があります。
全ての拠点が黒字なら良いですが、大抵の場合赤字拠点が存在し、何らかの手当てをする必要があるためです。
本部繰入に関しては以下の記事を参考にして下さい。
引用:やっと分かった!社会福祉法人が行う本部繰入のルール|立花淳一税理士事務所
他には、長期資金の貸し借りは予算を作成して理事会の承認を受ける必要がありますし、指導監査では、貸し借りの目的・契約・返済計画書などを要求されることもあります。
拠点数が多ければ多い程、お財布(銀行口座)が分かれますので、多くの資金が必要になる傾向があります。不足分は、金融機関から融資を受けますが、借入も理事会の決議が必要ですので、計画的に行う必要があります。
業績の良くない複合型の大規模法人は資金繰りがタイトになるので、通知をより正確に理解する必要があります。
「解説本には大丈夫と書いてあった」は、残念ながら監査の場では通用しないことがあります。
当事務所では、こうした通知の文言と実務慣行のズレをも踏まえ、貴法人の所轄庁の傾向に合わせた最適な資金繰りアドバイスを行います。
社会福祉法人の資金繰りや拠点間の貸し借りについて、たくさんの実績がありますので、資金についてお悩みの法人はお気軽にご相談下さい。
