社会福祉法人の決算を早期化する5つのコツを税理士が伝授!
いよいよ年度末。社会福祉法人の経理担当者の皆様、憂鬱な季節がやってきましたね。
「4月になったらあの作業地獄が始まる…」と、カレンダーを見て溜息をついていませんか?
筆者も今回で23回目の社会福祉法人の決算ですが、正直に言えば、毎年私も不安です。
しかし、数多くの現場を渡り歩く中で確信したことがあります。決算の早さは「気合」や「根性」ではなく計画的な「段取り」です。
経理はゴールデンウイークに休めなくて当然と思っていませんか?今回は、私が社会福祉法人の現場で実践し、劇的に効果があった「5つのコツ」を伝授します。
目次
決算スケジュールがタイトになる理由

社会福祉法人は決算が3月と法令で定められており、決算の理事会と評議員会は6月に行いますので、どんな法人であっても、概ね、6月の第一週までには決算書が完成していなければなりません。
4月と5月という実質2か月の間に、
・3月の月次処理
・決算整理
・積立や取崩しの最終調整
・棚卸と実査
・税務申告書の準備と作成
・決算書と附属明細書の作成
・監事監査
・会計監査人監査(監査対象法人のみ)
・指摘による修正
・理事会と評議員会の議案の作成
・資産総額の変更登記の準備など
このような作業にたくさんの工数を要しますので、時間的余裕はほとんどありません。
修正は一度ではなく何度も発生します。3月末時点で如何に不明な数値を無くしておき、実質2か月間の無駄な時間を使わないかが早期化の最大のポイントになります。

ポイント1:内部取引の把握
「年度末にまとめてやればいいや」という未処理事項を残す姿勢は絶対にNGです。
「合わない原因を探すだけで丸一日潰れた…」なんて経験はありませんか?
3月の時点で、2月末までの不一致を「ゼロ」にしておく。この貯金が、4月の自分を救います。
内部取引の不一致は、最終的に相殺する必要があり、帳票が不整合を起こすため許されません。もし、帳票を一致させるために辻褄合わせの仕訳を入れると、意味不明な残高が残ってしまいますので、結果的に信頼できない決算書になってしまいます。
(1)拠点や事業の区分間の債権債務の残高を一致させる。
複数の拠点がある場合は、補助科目を作成して補助科目レベルまで一致させる。
(2)拠点や事業の区分間の繰入金の額を一致させる。
複数の拠点がある場合は、拠点間の合計額を一致させるとともに、繰入の財源(介護保険収入・委託費収入・運用収入・前期末支払資金残高など)も把握する。
(3)通常科目を使用する内部取引の整合性
就労売上や給食材料費など通常の科目を使用する内部取引は、一見内部取引か分からないので、金額の一致・科目の一致・内部取引の属性が正しく計上されているか把握する。

ポイント2:固定資産管理と減価償却の「事前確定」
社会福祉法人会計の明細書で最も情報量が多いのが固定資産台帳の情報です。固定資産は4月中には確定できるものですので、3月に入ったらすぐに償却計算を行い、拠点ごとに明細と帳簿をいち早く突合させておくべきです。
(1)固定資産に計上すべき金額(資本的支出)か費用にすべき金額かを検討しておく。
(2)帳簿に計上したものが、固定資産台帳に登録ができているか確認しておく。
(3)3月末までに除却すべき資産が除却されているか確認しておく。
(4)施設整備補助金に対応する国庫補助金等特別積立金について、固定資産計上による通常取崩しか、費用計上による即時取崩しを行う対象かどうかを把握しておく。
(5)年度末には経理規程にある固定資産の実査(現物確認)を計画に組み込む。

ポイント3:補助金・助成金・給付金の金額の確定
社会福祉法人の世界ではあるあるですが、この業界独特の論点です。
社会福祉法人は自治体から補助や助成などを受けており、3月分の請求を4月中に送りますが、その金額の確定が5月以降になることがあります。素直に待っていると決算に間に合わなくなります。
一方、金額が確定していなくても、請求しているのだから金額は把握できているのでは?と思われるかもしれませんが、大幅に修正させられたり、酷い自治体は請求書や申請書の金額欄が空欄で提出を要求されたり、見積計上もできないケースもありますので注意が必要なのです。
自治体待ちの姿勢は危険です。相手も人間ですから、早めに「いつ頃確定しますか?」「いつ頃までには欲しいです!」と一報入れるだけで、情報の入り方が変わります。どうしても金額の確定が間に合わない場合は、見積計上をどのようにするか検討する必要があります。
会計監査人が入る法人は、前期の見積計上金額と実際入金額の差額を確認され、プロセスや恣意性がないか確認されます。

ポイント4:銀行借入情報の把握
借入金の明細書を作成する必要があり、注記情報もあるため、詳細情報の把握が必要です。3月末時点では明細書が作成できますので、早めの作成は決算の早期化につながります。
(1)利息情報は、銀行借入とリースなどの利息が混ざらないように区別して把握する。
(2)借入の担保に供している資産を把握する。
(3)借入の連帯保証人の情報を把握する。
(4)3月までに実行した借入に関する理事会の議案を把握する。
(5)期末の残高証明書の発行依頼を早めにしておく。

ポイント5:最後の最後でないと把握できない情報の整理
もっとも遅れがちな情報なので注意が必要です。
(1) 積立金の計上と取崩し
積立金の計上や取崩しは、決算の最終的な数値を確認した後に金額が算定できますので、時間的にシビアな中で処理を行うことになります。
しかし、この処理を行わないと帳票の作成ができませんので、この処理が固まらないことは決算が遅れることに直結します。積立金の計上や目的外の取崩しは理事会の議案ですので、併せて作成が必要です。
積立金の処理が義務的な認可保育園や就労支援施設は注意が必要です。
(2) 納税額の算定
【会計の論点】
納税額に関しては、5月末までに申告書案を作成して年税額を決算に織り込む方法と見積額を会計に反映する方法がありますが、この情報も全ての情報を入れた後の処理なので、積立金の処理と同様に遅れがちな論点です。
【税務の論点】
確定決算原則の観点からは、決算理事会が6月にある場合、5月末の法定申告期限は間に合いません。
そこで、1か月の延長申請制度があるわけですが、消費税に関しては、確定決算原則の要請がなかったことから延長申請はできませんでした。しかし、現在では法人税の延長を受けていることを要件に1か月の延長申請が可能です。(消費税法45条)
一方、消費税法60条と消費税法施行令76条には、「社会福祉法人等の別表第3に掲げる法人が、決算を完結する日が会計年度末日の翌日以後2か月以上経過した日と定められていることその他特別の事情があるものは、6月以内で納税地の所轄税務署長が承認する期限内で延長ができます。」とされています。
社会福祉法の改正により平成29年4月1日以降、決算書の作成期限が毎会計年度終了の日以後3月以内(従前は2か月以内)に変わったことにより、一見60条の延長申請ができそうに思われます。
法令ではない解釈ですが、国税庁は質疑応答事例で「できない」と回答しています。
国税庁ホームページ:国、地方公共団体等の申告期限の特例の適用

まとめ:決算の早期化は「経営の質」を変える
決算早期化の本当のメリットは、単に残業が減ることでなく「自分たちはできる」という経理担当者の自信と早期化による「心の余裕」です。
自信があると、会計的な不整合を許さない雰囲気が醸成され、修正の初動が良くなります。
ミスを指摘されると、悔しがるようになりますし、その悔しさは、次のレベルアップを生みます。
早く終わることで生まれる「心の余裕」は他の業務への迅速な対応に繋がります。
会計の世界は利用者支援の現場と違い、必ず正解(真実)があります。やり方によっては、必ず、どこの法人よりも早く正確に情報を捉え、次の意思決定に資する情報の提供ができます。それにより経営の質は変わります。
経理業務は毎年ほとんど同じ作業の繰り返しですので必ずレベルアップできます。
過信は良くありませんが、自信を付けやすい職種であることは間違いありません。
まずは、今回ご紹介した5つのうち、できそうなところから1つずつ意識してみてください。
(1)内部取引情報の把握
(2)固定資産情報の把握
(3)補助金の確定情報の把握
(4)借入情報の把握
(5)最後の最後でないと分からない情報の把握
「月次処理は決算処理の12分の1。」来年度は、決算書を1か月ではなく12か月で分割して作成している感覚になっていれば正解です。
「具体的にうちの法人の場合、どこから手をつければいい?」とお悩みの方は、まずは前倒しできる作業とできない作業を区別することから始めてみてください。
毎年、理事会に決算書の議案が間に合わない、決算書に説明できない差異が残る…。そのような状況には必ず原因があります。
「経理は、その法人の経済的実態を映し出す鏡」
より良い福祉を行うために、経営基盤を固めるには、正確な経理情報が必ず必要になります。経理体制でお悩みの法人は、一度当事務所にご相談下さい。
