社会福祉法人における消費税の非課税取引をご紹介(全体編)

社会福祉法人における消費税の非課税取引をご紹介(全体編)

社会福祉法人の収入は、消費税の取り扱いは分かり難いという話をよく聞きます。社会福祉法人の職員の方からも聞きますし、税理士仲間からも聞きます。

税理士として実務をやっていて、確かににそう感じます。「非課税取引って何?」きちんと説明できますでしょうか?

社福の経理担当者にとって、永遠の課題と思われてきた「非課税を判断するためにはどうすれば良いの?」という素朴な疑問に深く切り込みます。

社会福祉業界で起こった非課税判定をめぐる大事件

近年、障害福祉事業を行っている社会福祉法人で非課税判定をめぐる大事件が起きました。

障害福祉施設は、いわゆる「総合支援法」で給付を受けて障害者の相談支援事業を行っている事業所が多数あります。

そして、半数以上の自治体が相談支援の委託事業を非課税として取り扱ってしまい適正な税金を納めていなかった事が令和5年7月に報道で明らかにされ、国会を巻き込んで令和5年10月以降全国的に大問題になったのです。

理由は、「障害者相談支援事業」は、総合支援法5条の一般相談支事業及び特定相談支援事業と77条の相談支援事業があり、5条の相談支援事業は非課税だが77条の相談支援事業は非課税でなく委託事業を課税として処理するすべきだったためです。

 引用元:障害者相談支援事業等に係る消費税の取扱い等|国税庁

このように、社会福祉事業に関する消費税の非課税判定は、社会福祉事業に最も詳しい自治体職員でも誤認してしまうほど、間違えやすいのです。

消費税法の非課税取引の特徴

消費税の世界では、まず以下の4つの要件に一つでも該当しない取引を、対象外取引として計算過程から除外します。社会福祉法人にとっての代表選手は、補助金や寄付金などです。

 

(1)国内取引である

(2)事業者が事業として行っている取引である

(3)対価性のある取引である

(4)物を売る・物を貸す・サービスをする取引である

 

最初の難関ポイントは、自治体からの入金は対象外取引の補助金収入の類と、非課税になる給付金収入の類を区別をしなければならない点です。合算されて入金されることもよくあります。

 引用元:No.6105 課税の対象|国税庁

消費税の世界で免税という言葉も使用しますが、輸出取引の場合に使いますので社会福祉法人はあまり意識しなくて大丈夫です。ただし、対象外取引・免税取引・非課税取引という言葉にはそれぞれ「税金がかからない」以外の意味と用途がありますので、混同して使用しないようにしましょう。

 

次に、非課税取引を認識しますが、消費という概念になじまないものや、政策的な配慮から非課税とされるものがあります。

非課税取引は消費税法別表第二に以下の13項目の限定列挙があり、一見分かりやすそうですが範囲設定が複雑なので決して分かりやすくありません。(消費税法6条)

また、非課税取引は、税金の対象計算には使いませんが、本則課税では、税金を計算するための割合に使用するため、実務的には、除外するだけでなく、取引を正確に集計する必要があります。

 引用元:No.6209 非課税と不課税の違い|国税庁

 

消費税法別表第二による非課税の13項目

非課税取引とは基本的に以下の13項目です。

社会福祉法人にとって注意すべき最重要項目は、7番目の介護サービス・社会福祉事業に該当する項目で、それ以外は一般的な事業会社とほぼ同様と考えて頂いてよく、社会福祉法人の消費税の理解は7番目の把握が鍵になります。

 ≪別表第二≫

(1)土地の譲渡及び貸付

 社会福祉法人の代表取引は、駐車場用に更地を借りた賃料など

(2)有価証券及び支払手段の譲渡

 社会福祉法人の代表取引は、両替など

(3)利子を対価とする金銭の貸付等

 社会福祉法人の代表取引は、預金や借入の利息など

(4)郵便切手類・印紙・証紙、物品切手類の譲渡

 社会福祉法人の代表取引は、切手や印紙の購入(購入であって使用ではない)など

(5)行政サービス、外国為替業務

 社会福祉法人の代表取引は、行政手数料として印紙を貼った(使用であって購入でない)など

(6)社会保険医療等

 社会福祉法人の代表取引は、社会保険料の支払いなど

(7)介護サービス事業・社会福祉事業

 社会福祉法人はここがメインのため別に解説

(8)助産

 社会福祉法人の場合、主として医療事業を行う法人

(9)埋葬・火葬

 社会福祉法人にはほとんどない

(10)身体障害者物品の譲渡等

 社会福祉法人の代表取引は、車いすの譲渡や貸付けなど

(11)学校教育法

 社会福祉法人にはほとんどない

(12)教科用図書の譲渡

 社会福祉法人にはほとんどない

(13)住宅の貸付

 社会福祉法人の代表取引は、社宅の賃料の支払いなど

引用元:No.6201 非課税となる取引|国税庁

非課税13項目の7番目の介護サービス事業・社会福祉事業

7番目の項目は、社会福祉法人にとって、最も重要な項目で更に以下の区分を意識する必要があります。

特に、(3)は社会福祉法の社会福祉事業に該当しない事業なので間違いやすいです。

 

(1)介護保険法に関連する非課税(施行令14-2)(基本通達6-7-1、6-7-2)

介護保険法の事業=非課税というわけでなく、「限る」や「除く」の範囲設定があります。

社会福祉法人の注意点として、サービス利用者の選択による特別な居室の提供や送迎などの対価は非課税取引には当たりません。

この項目の具体的な説明は別記事の「介護保険事業編」を参照して下さい。

(2)社会福祉法に関連する非課税の範囲(施行令14-3)(基本通達6-7-5)

この社会福祉事業=社会福祉法2条の社会福祉事業=原則として非課税です。

社会福祉法人の注意点として、障害福祉施設の生産活動部分は非課税取引になりません。

理由は、施設に発注した費用が非課税取引になり課税仕入れにならないと、福祉施設への発注が避けられて、施設の売上が減少するので、消費税導入時に業界団体が要望したためです。

この項目の具体的な説明は後日投稿される別記事の「社会福祉事業編」を参照して下さい。

(3)上記(2)に類する非課税の範囲(施行令14-3)

社会福祉事業には該当しないが非課税を認めたものです。

この規定自体知られておらず、抽象的な記載もあり、非常に間違いやすい規定です。

この項目の具体的な説明は上記の「社会福祉事業編」を参照して下さい。

引用元:No.6215 社会福祉事業等として行われる資産の譲渡等に係る非課税範囲|国税庁

まとめ

社会福祉法人にとっての消費税の非課税の全体像と注意点を解説してきました。

全体像を示すために根拠規定が入りましたが、条文解釈は条文の存在の特定と検討の順番が大切です。

 

  1. 1、取引が4つの要件により消費税に関係のある取引か?
  2. 2、消費税に関係のある取引が非課税の規定に該当しうるか?
  3. 3、該当するなら非課税は別表の13項目のいずれか?
  4. 4、7番目の介護保険事業・社会福祉事業に該当する場合は、類する事業まで検討したか?

 

よくある間違いは、「社会福祉事業にも介護保険事業にも該当しないから非課税にならないと判断したが、実は類する事業に該当していて非課税だった」というものです。

筆者の経験上、取引を検証しないまま消費税コードが会計ソフトの設定や担当者の感覚で付されてしまっていることが良くあります。

金額が僅少な場合は、問題にはなりませんが、取引が数千万規模になる場合は、一つの判断の相違で過去に遡って経営に大きな影響を及ぼす可能性があります。

日常業務で疑問を感じたとき、新規事業の開始、自治体からの委託契約の変更などがあった場合は、社会福祉法法人専門の税理士にご相談下さい。