社会福祉法人に土地等を売却した場合の5,000万円の特別控除とは?
社会福祉法人に関係する優遇税制はたくさんありますが、税理士がよく質問される論点として、社会福祉法人に土地等を寄付した場合や売却した場合の課税関係があります。
個人が寄付をした場合は、租税特別措置法40条1項の後段に根拠があることから「措置法40条」などと言われることがあります。
一方、個人が土地等を売却した場合は、租税特別措置法33条の4に根拠がありますが、「措置法33条」ではなく、「5,000万控除」などと言われることが多いように思います。
今回は、少し難しい後者の「収用等の場合の5,000万円特別控除」の論点を説明したいと思います。
目次
5,000万控除を理解するための基礎知識

所得税の世界で、マーホームを売って3,000万円の控除があるのは有名ですが、もし、社会福祉法人に土地等の固定資産を売却して、譲渡益の5,000万が非課税になるなら、とても有利な規定に思えます。
でもなぜ、マイホームでもないのに、個人が社会福祉法人に土地等を売却すると、その売却益に課税されなくなるのかという理由について考えてみましょう。正しく理解するためには、まず「課税の繰り延べ制度」について理解しておく必要があります。
「課税の繰り延べ制度」は、法人税か所得税かによって若干違うのですが、税制という大きな枠組みの中で考えてみますと、やむを得ない事情で固定資産の所有権が移転する取引が行われることがあります。そんな時に、課税されると困る利益が生じると、その利益に対して税制上の優遇を行うことがあります。
いくつか具体例を見て考えてみましょう。もし自分の固定資産が災害に遭い、その保険金で代わりの固定資産を買い替えようとする際に、保険金が利益として一時に課税されてしまうと、資産を取得するために貰ったお金が足りなくなり、代わりの固定資産を買えなくなってしまい困ります。
あるいは、もし政策目的で自分の固定資産が行政機関に強制的に収用され、その補償金で代わりの固定資産を買う際に、補償金が利益として一時に課税されてしまうと、資産を取得するために貰ったお金が足りなくなり、代わりの固定資産を買えなくなってしましまい困ります。
このように、課税されたくない利益が生じた時に、課税を先送りして、代わりの固定資産の取得を円滑に行うための制度が「課税の繰り延べ制度」です。他にも、国庫補助金をもらった時、特定資産を買い換えした時など幾つかのケースが想定されています。
その中で収用など一部の規定は、課税の繰り延べに代えて所得の特別控除の規定が使えることがあります。これは、特に国家権力で強制的に所有権を移転させる場合に、納税者の優遇の選択肢を大きくしている規定です。
これが、所得控除と言われるものです。たいていの場合、選択適用ですが、課税の繰り延べとの最大の違いは、一時的な減税でなく、恒久的に税金が少なくなる点です。
理論上、長期的には、所得控除の方がトータルで有利になりますが、金額制限の違いもあり、資産取得年度では課税の繰り延べの方が、税金が少なくなる場合もありますので、いずれの適用を受けるべきか検討が必要です。
これらの規定の趣旨は、いずれも課税されたくない利益を減らし、代わりの固定資産の取得を円滑に行わせるということですので、恒久的な減税が必ず正解となるとは限らないことに注意が必要です。

社会福祉法人に対する5,000万控除とは?
社会福祉法人の「5,000万円控除」は、この収用等の所得の特別控除規定を準用します。
ところで、収用等は、所有する資産が土地収用法等の規定により収用されたとき、又は買取り申出を拒めば収用されることとなる場合において強制的に買い取られたときを前提とするので、任意で社会福祉法人に売却した時に適用されるのか疑問に感じるかもしれません。
しかし、国側が資産を社会福祉事業に活用するなら公共事業と実質的に同等と考え、収用されたと同様に考えてくれているのです。したがって、当たり前ですが、任意に売却した場合と違い、この優遇を受けるためには、たくさんの要件と手続きがあります。
具体的には、まず、通常の課税の繰り延べの規定と同様にいくつかの要件がありますし、社会福祉事業の中でも限られた事業でないと、事業認定という別の手続きが必要になります。
それに加えて、税務署側と事前協議が必要(対価200万未満は省略可)とされており、売主は売却先の社会福祉法人から収用証明書(公共事業用資産の買取り等の証明書)を取得し、確定申告書に添付しなければなりません。
非課税の恩恵を受けるのは売主ですが、買主である社会福祉法人側が事業認定や事前協議を行わなければならないことがポイントです。
関東信越国税局から事前協議の手引きが公開されていますが、かなりのボリュームであることが分かります。
引用元:公共事業等の実施に伴う収用等に係る課税の特例についての事前協議の手引等|関東信越国税局

まとめ
個人が社会福祉法人に土地等を売却した場合に、その譲渡益に対して5,000万円までの特別控除の規定が用意されています。
この規定は、課税されたくない利益が生じたときに課税が猶予される課税の繰り延べ制度の中で、選択適用できる収用等の所得の特別控除規定を利用しています。
もしこの控除を使うなら、任意で売却した土地等なのですが、社会福祉法人が収用したという収用証明書(公共事業用資産の買取り等の証明書)を発行してもらい確定申告書に添付する必要があります。
社会福祉法人がこの規定を使いにくいのは、土地等の固定資産を売りたい個人がいて、その方が5,000万円の特別控除を使いたいと思っても、どこの社会福祉法人に土地を売ればこの控除を使えるのか分からないことと、社会福祉法人側もこの控除の恩恵を受けるのは自分でなく売主であり、法人側は恩恵を受けないのにも関わらず、かなりの事務コストがかかってしまう点があります。
また、社会福祉法人側は、安く買えるわけでも訳でもないため、土地等の売却代金を用意する必要があり、事務コストをかける位なら、市場から他の土地等を買った方がマシということになりかねません。
この規定が使われるケースは、売主と社会福祉法人が比較的近い関係で、社会福祉法人がどうしても欲しい土地等があって、「他に売れば売却益に課税されるが、当法人に売ってくれれば、5,000万迄所得控除ができるので売って下さい。」このような展開ならお互いにメリットがあり進む可能性があるように思います。
当事務所にも、この規定の相談を受けることは度々ありますが、手続きが煩雑なため断念される方がほとんどです。もし、支援がご希望の場合は、成功報酬の料金プランをご用意しております。お気軽にご相談下さい。
