社会福祉法人会計の積立金と積立資産の取り扱いを徹底解説!
社会福祉法人会計で積立金と積立資産の積立と取崩しについて、混同している方や分からないという方は本当に多いです。
確かに難しい論点ですので仕方ないと思います。
言葉が似ているうえに、規定の書き方が曖昧な部分があることと、一つの会計処理が様々な論点に影響するため、混同しやすいです。更に、隠れた連動性があるために部分的に規定を見ても理解できません。
でも、ご安心下さい。5つのステップによる今回の記事でこの論点の全体像が把握できます。

目次
第一段階:「積立金」の「積立」と「取崩し」について理解しましょう!
第一段階の根拠は、社会福祉法人会計基準6条3から派生します。
| その他の積立金には、将来の特定の目的の費用又は損失の発生に備えるため、社会福祉法人が理事会の決議に基づき事業活動計算書の当期末繰越活動差額から積立金として積み立て額を計上するものとする。 |
後段で説明しますが、ポイントは、取崩しに関して理事会決議の記載がありませんが、だからといって理事会の決議なしに自由に取り崩せるわけではありません。取崩しに関しては後段で解説します。
運用上の取り扱い(局長通知)19
| 事業活動計算書(第2号第4様式)の当期末繰越活動増減差額にその他の積立金取崩額を加算した額に余剰が生じた場合には、その範囲内で将来の特定の目的のために積立金を積み立てることができるものとする。 積立金を計上する際は、積立ての目的を示す名称を付し、同額の積立資産を積み立てるものとする。 また、積立金に対応する積立資産を取崩す場合には、当該積立金を同額取崩すものとする。 |
積立金の積み立ては「できる」規定となっている一方で、積立資産の積立はできる規定ではありません。また以下で取崩しも連動していますので、原則として積立金と積立資産は同じ動きをすることになります。
順番は積立金の積立→積立資産の積立となります。取崩しの場合は逆の順番になります。
ただし、積立金を計上せずに積立資産を計上することが認められており例外的な動きがあります。後段で解説します。

帳票へ影響する場所
積立金の処理が影響する帳票と場所を必ず意識して下さい。積立金の増減は貸借対照表の右側と事業活動計算書の末尾に影響します。
〇貸借対照表
| 流動資産の部100,000 | 流動負債の部60,000 |
| 純資産の部40,000 | |
| 基本金26,800 | |
| その他の積立金200←ここ | |
| 次期繰越活動増減差額13,000 | |
| 資産の部合計100,000 | 負債及び純資産の部合計100,000 |
〇事業活動計算書
| サービス活動収益 | 10,000 |
| サービス活動費用 | 7,000 |
| サービス活動増減差額 | 3,000 |
| サービス活動外収益 | 500 |
| サービス活動外費用 | 400 |
| サービス活動外増減差額 | 100 |
| 経常増減差額 | 3,100 |
| 特別収益 | 200 |
| 特別費用 | 100 |
| 特別活動増減差額 | 100 |
| 当期活動増減差額 | 3,200 |
| 前期繰越活動増減差額 | 10,000 |
| 当期末繰越活動増減差額 | 13,200 |
| その他の積立金取崩額 ←ここ その他の積立金積立額 ←ここ | 200 400 |
| 次期繰越活動増減差額 | 13,000 |
積立金の積立や取崩しは事業活動計算書は当期活動増減差額に影響しません。言い換えれば、当期の経営成績には何ら影響せず、積立金を取り崩しても黒字になるという意味ではないことがポイントです。あくまでも次期繰越活動差額の調整ということをご理解下さい。

第二段階:「積立資産」の「積立」と「取崩し」について理解しましょう!
第二段階の積立資産についての根拠は、運用上の取り扱い(局長通知)と運用上の留意事項(課長通知)にあります。
局長通知19により、積立金と積立資産は原則として連動することを前段で確認しました。
下記の課長通知19にある積立金と積立資産についての規定より、積立金を計上せずに積立資産を計上することができます。
積立金の計上の無い積立資産の積立についても、モデル経理規程によって理事会の決議が必要とされています。
課長通知19とモデル経理規程
| 課長通知19(1)積立資産の積立て 運用上の取り扱い第19において積立金を計上する際は同額の積立資産を積み立てることとしているが、資金管理上の理由等から積立資産の積立てが必要とされる場合には、その名称・理由を明確化した上で積立金を積み立てずに積立資産を計上できるものとする(別紙3(⑫)「積立金・積立資産明細書」参照)。 |
| モデル経理規程の資金の積立 資金管理上の理由から積立資産の積み立てが必要とされる場合には、前項の規定にかかわらず、積立資産の積み立てを行うことができる。ただし、この場合において、積立資産には積み立ての目的を明示した名称を付すとともに、理事会の承認を得なければならない。 |
帳票へ影響する場所

積立資産の処理が帳票のどこに影響するかを必ず意識して下さい。
●貸借対照表
| 流動資産の部100,000 | 負債の部60,000 |
| 流動資産80,000 | 純資産の部40,000 |
| 基本金26,800 | |
| 固定資産の部20,000 | その他の積立金200 |
| ●●積立資産200←ここ | 次期繰越活動増減差額13,000 |
| 資産の部合計100,000 | 負債及び純資産合計100,000 |
●資金収支計算書
| 事業活動収入 | 10,000 |
| 事業活動支出 | 7,000 |
| 事業活動資金収支差額 | 3,000 |
| 施設整備等による収入 | 500 |
| 施設整備等による支出 | 300 |
| 施設整備等資金収支差額 | 200 |
| その他の活動による収入 積立資産取崩収入←ここ | 200 200 |
| その他の活動による支出 積立資産支出←ここ | 400 400 |
| その他の活動資金収支差額 | △200 |
| 当期資金収支差額合計 | 3,000 |
| 前期末支払資金残高 | 37,000 |
| 当期末支払資金残高 | 40,000 |
積立資産は貸借対照表の左側と資金収支計算書のその他の活動による収入と支出欄に影響します。
積立資産の増減は、当期支払資金残高に影響することがポイントです。つまり、資金が不足していれば取崩しにより当期の支払資金残高をプラスにさせることができます。
第三段階:積立資産の積立時期を理解しましょう!
積立金の積立は通常は決算整理で行います。決算整理は通常翌期の4月から5月に行いますので、3月末以降の処理にならざるを得ない事情があります。
一方、決算書は3月末時点の数値ですから、積立資産を専用口座で管理している場合は、その資金移動が間に合いません。
そこで課長通知19で、決算理事会終了後2か月以内と定めています。
課長通知19
| 積立資産の積立ての時期 積立金と積立資産の積立ては、増減差額の発生した年度の財務諸表に反映させるのであるが、専用の預金口座で管理する場合は、遅くとも決算理事会終了後2か月を越えないうちに行うものとする。 |
この規定は、資金移動についての期限であって、財務諸表の反映についてではありませんので、積立資金が移動されなかったとしても、積立資産の仕訳を行い、流動資産分と固定資産分の明細を作成して預金残高証明書と一致させるべきと考えられます。専用口座でなくても会計処理上は積立資産は計上できるためです。

第四段階:積立資産の取崩しについて理解しましょう!
取崩しに関しての根拠は、モデル経理規程の資金の積立にあります。
積立資産を取り崩す際に、対応部分があれば積立金を取り崩しますので、順番は積立資産の取崩し→積立金の取崩しとなります。
モデル経理規程
| 将来の特定の目的のために積立金を積み立てた場合には、同額の積立資産を積み立てなければならない。この場合において、積立資産には、積立金との関係が明確にわかる名称を付さなければならない。また、積立金に対応する積立資産を取崩す場合には、当該積立金を同額取崩さなければならない。(注22) (注22)積立金とは、社会福祉法人の業務に関連して発生した純資産の一部を構成する剰余金のうち、将来の特定の目的の支出又は損失に充てるために、理事会の決議に基づき積立金として積み立てられたものをいう。 一方、積立資産とは、支払資金のうち将来の特定の目的の支出に充てるための財源を確保するために理事会の決議に基づき積み立てられたもので固定資産の一部を構成する。 |
積立資産と積立金の取崩しに理事会の承認が必要か?という質問をよく受けます。
積立金は対応する積立資産の取崩しに連動しますし、積立資産単独の取崩しもありますので、先行する積立資産の取崩しがポイントになります。
積立資産の取崩しは資金収支計算書のその他の活動による収入に影響しますので、予算書に計上し理事会の承認を受けなければなりません。 また、モデル経理規程細則では積立資産の取崩しに関して以下のように規定されています。
モデル経理規程細則
| (取崩) 第2条 経理規程第37条に定める積立資産は、次に掲げる場合にそれぞれに掲げる金額を取崩すものとする。 (1) 当該積立資産の目的である支出があった場合 当該積立資産の金額範囲内の目的支出額 (2) 当該積立資産の目的である支出が行われないことが理事会で決定した場合 当該積立資産の総額 (3) 当該積立資産を積立目的以外に使用する場合 当該積立資産について理事会で取り崩すことと決めた金額 |
(2)と(3)で当初の目的と変更がある場合には、理事会で決議することが分かります。したがって、取崩しに関しても目的支出以外は予算議案とは別に理事会の承認を受ける必要があると考えるべきです。

第五段階:行う事業により派生する影響を理解しましょう!
積立金や積立資産の論点は、行う事業によっても独特の影響が生じます。
代表的なものは、就労支援事業(生産活動系)と認可保育園の委託費事業(措置費系)です。
今回は認可保育園の委託費事業を取り上げます。 認可保育園にはいわゆる弾力運用通知(254通知)と呼ばれる行政通知によって他の事業よりも強い規制を受けます。
254通知と256通知
| <経理等通知3(2)> 当期末支払資金残高は、…(略)…、当該年度の委託費収入の30%以下の保有とすること。 |
| <経理等運用通知問21> 30%を超える場合は、「将来発生が見込まれる経費を積立預金として積み立てるなど、長期的に安定した経営が確保できるような計画を作るよう指導を行い、それでもなお、委託費収入の30%を超えている場合については、超過額が解消されるまでの間、改善基礎分について加算を停止すること。」 |
この規定により、30%を超える場合は、積立金に積み立てをして積立金支出を計上することにより当期末支払い資金残高を30%以下まで下げる必要が生じます。
積立金の積立は本来任意規定でしたが、半ば強制的に計上せざるをえないことになることがポイントです。
また、認可保育園は本部に繰入れる際の原資は前期末支払資金残高しか認められていませんので、繰入の原資が不足する場合は、積立資産を取り崩して取崩し収入を計上して必要額を確保する必要があります。この場合、予算計上とは別に目的外取崩しならば理事会の承認が必要です。

まとめ
<第一段階:積立金の積立と取崩しを理解しましょう。>
・積立金の積立は理事会承認が必要です
・積立金の積立は任意規定ですが、積立資産の積立と原則的には連動しています。
・積立金の積立と取崩しは、貸借対照表の右側と事業活動収支計算書の末尾に影響します。取崩しによって当期の赤字を黒字化することはできません。
<第二段階:積立資産の積み立と取崩しを理解しましょう。>
・積立資産の積立も理事会の承認が必要です。
・積立金を積み立てなくても積立資産を積み立てることができます。
・積立資産の積立と取崩しは、貸借対照表の左側と資金収支計算書のその他の活動による収支に影響します。取崩しによって当期資金収支活動を黒字化できます。
<第三段階:積立資産の積立時期を理解しましょう。>
・積立資産を専用の預金口座で管理する場合は、遅くとも決算理事会終了後2か月を越えない範囲で移動します。
・3月末時点で移動をしなくても、積立資産の会計処理はできますので、預金の内訳表を作成して残高証明と勘定科目を整合させて説明しましょう。
<第四段階:積立資産の取崩しを理解しましょう。>
・積立資産の取崩しは、対応している積立金の取崩しと連動します。
・積立資産の取崩しは資金収支計算書に影響しますので、予算による理事会承認が必要です。
・また積立時に理事会で承認を受けた目的使用以外は、理事会の承認が必要です。
<第五段階:積立金が派生する論点を理解しましょう>
・認可保育園の委託費は、当期の委託費の30%を超えて当期末支払資金残高を保有することはできませんので、半強制的に積立金を積み立てることになります。
・また、本部への繰入の原資は前期末支払資金残高しか財源にできませんので、予算計上時点で不足がある場合には、積立金を取り崩す必要が生じます。
積立金や積立資産は社会福祉法人会計の中でも、非常に難解な論点です。
自治体が税理士に委託する社会福祉法人会計の研修会の質問でもこの論点の質問が非常に多いので、指導監査をする側の自治体職員も理解し難いということがよく分かります。
一方、施設側は、この論点を理解していないと、手続き不足や帳票類の不整合は指導検査で指摘されますし、予算や繰入など他の論点に派生するため、年間を通して全体の辻褄を合わせる必要があります。
当事務所は、就労支援事業や認可保育園の委託費事業を得意としており、積立金や積立資産の運用も数多くの実績がありますので、運用でお悩みの方はお気軽にご相談下さい。
