社会福祉法人が行う公益事業や収益事業の判定の落とし穴!
社会福祉法上、第一種社会福祉事業は、原則として国・地方公共団体又は社会福祉法人しか経営することができません。一方、第二種社会福祉事業は経営主体を問いません。
2000年以降、法定代理受領制度が導入され、第二種社会福祉事業なら株式会社等でも認可されるようになりました。
また、社会福祉法人は、公益事業や収益事業を行うことができますが、認可というプロセスになりますので、必ずしも厳格に区分経理されているとは限らず、その判定においてもある程度幅があります。
制度上許容されている幅を知らないと、決算書や開示情報を正しく読み解くことはできません。
今回は、判定にあたって普段は気が付かない落とし穴について解説します。

目次
基礎知識:社会福祉法人が行う事業とは?
社会福祉法人は、社会福祉事業の他に公益事業と収益事業を行うことができます。
細かい事は置いておいて、話の前提となる基礎知識として、それぞれの特徴と簡単なイメージを持っていただけると良いと思います。

社会福祉事業とは?
社会福祉法2条に規定されている、福祉の根幹をなす公共性が極めて高い事業で、その事業の性質と利用者への影響の大きさによって、二種類に分類され列挙されています。
(1)第一種社会福祉事業
利用者への影響が大きく、経営安定を通じた利用者の保護の必要性が高い事業です。入所系の施設が中心で、支援の度合いが高い事業です。
ポイントは公立か社会福祉法人しか運営できません。代表例は、特別養護老人ホームです。
(2)第二種社会福祉事業
比較的利用者への影響が小さく、公的規制の必要性が第一種に比べて低い事業です。通所系施設が中心で、支援の度合いが低い事業です。
ポイントは、経営主体に制限がなく誰でも運営可能です。代表例は、認可保育園です。
公益事業とは?
社会福祉事業以外で、公益を目的とする事業です。 公益事業は、社会福祉事業に関連した事業であり認可を受ける必要があります。主たる事業になれないのがポイントです。
大きく二つのタイプがあり、個別法により公費の助成や寄付者の支援を受けられるタイプと、公費の助成を受けられないが社会福祉的な側面から必要性により、自主事業として持ち出し覚悟で行うタイプがあります。
収益事業とは?
社会福祉事業や公益事業の財源を確保することを目的とする事業です。 公序良俗に反する恐れのある事業以外自由に行うことができますが認可を受ける必要があり、主たる事業にはなれません。
実務的には、不動産事業が圧倒的に多いです。社会福祉事業への補填(繰入)を行うための事業ですので、社会福祉事業から収益事業への補填(繰入)はできないため、赤字経営は許されないことになります。
収益事業のポイントは、社会福祉法上の収益事業と法人税法の収益事業の概念が異なるため、行う事業によって課税関係を判定する必要があります。
例えば、収益事業として絵画教室をやった場合は技芸教授業として課税されますが、収益事業として算盤教室をやった場合は課税されないことになっています。理由は、税法の規定がそうなっているためです。
また、消費税や固定資産税も原則として課税対象になります。

落とし穴1:社会福祉事業に混ざる公益事業
会計のルールとしては、原則として、社会福祉事業、公益事業、収益事業はそれぞれ独立した拠点として区分されます。特に下記の(ア)から(シ)まではそれぞれ拠点として独立させます。
しかし、社会福祉法人会計基準運用上の留意事項4によれば、「その施設で一体的に実施されている(ア)から(シ)まで以外の社会福祉事業又は公益事業については、原則の規定にかかわらず、当該施設の拠点区分に含めて会計を処理することができる。」とあります。
多くのケースで、社会福祉事業拠点の中に他の社会福祉事業や公益事業が存在している可能性があります。
厚生労働省より引用:社会福祉法人会計基準の運用上の取り扱い
| (ア) 生活保護法第 38 条第1項に定める保護施設 |
| (イ) 身体障害者福祉法第5条第1項に定める社会参加支援施設 |
| (ウ) 老人福祉法第 20 条の4に定める養護老人ホーム |
| (エ) 老人福祉法第 20 条の5に定める特別養護老人ホーム |
| (オ) 老人福祉法第 20 条の6に定める軽費老人ホーム |
| (カ) 老人福祉法第 29 条第 1 項に定める有料老人ホーム |
| (キ) 売春防止法第 36 条に定める婦人保護施設 |
| (ク) 児童福祉法第7条第1項に定める児童福祉施設 |
| (ケ) 母子及び寡婦福祉法第 39 条第1項に定める母子福祉施設 |
| (コ) 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律第5条第11 項に定める障害者支援施設 |
| (サ) 介護保険法第8条第 25 項に定める介護老人保健施設 |
| (シ) 医療法第1条の5に定める病院及び診療所(入所施設に附属する医務室を除く) |
会計の区分でなく定款上の記載(認可)の論点でも混ざる可能性があります。
「社会福祉法人の認可について」という社会福祉法人の審査基準通知が存在しており、例えば、居宅介護支援事業所は社会福祉事業に該当せずに公益事業ですが、下記の審査基準通知によれば、特別養護老人ホーム等社会福祉事業の用に供する施設の経営に付随して行う場合には、定款上も公益事業として記載しなくても差し支えないとされています。
定款上の記載が絶対的な区分でないことが分かります。
厚生労働省より引用:社会福祉法人の認可について(通知)

落とし穴2:社会福祉事業に混ざる収益事業
社会福祉法人の審査基準通知では、収益事業だが、定款に収益事業に定めなくて良い例として、次のような例が上がっています。つまり、社会福祉事業の中に収益事業が混ざっている可能性があります。
厚生労働省より引用:社会福祉法人の認可について(通知)
| (1)当該法人が使用することを目的とする設備等を外部の者に依頼されて、当該法人の業務に支障のない範囲内で使用させる場合、例えば、会議室を法人が使用しない時間に外部の者に使用させる場合等 |
| (2)社会福祉施設等において、専ら施設利用者の利便に供するため売店を経営する場合 |
入院可能な病院経営をする社会福祉法人などは、たいてい売店は存在していると思いますが、収益事業として区分経理している法人と、社会福祉事業の中に内在してる法人があるということになります。
落とし穴3:社会福祉事業にも公益事業にもある医業事業
医療経営をしている社会福祉法人は多数あります。実は、医療法に基づく医療事業は社会福祉法上の社会福祉事業ではありません。
したがって、社会福祉事業の医療事業は、原則そして公益事業として行うことになりますので、主たる事業として行うことはできません。
ただし、例外があり、第二種社会福祉事業に「生計困難者のために、無料又は低額な料金で診療を行う事業」とあり、厚生労働省が定めた要件を満たせば社会福祉事業として行うことができます。社会福祉事業として行えば主たる事業として行うことができますが、厚生労働省は平成13年の時点で、社会情勢等の変化に伴い、必要性が薄らいでいるので、抑制を図ると主張してます。今後、拡大していく事業ではありませんが、現在は、社会福祉法人に限らず、たくさんの法人が低額診療を行っており全国で約700施設あるようです。
ちなみに、日本で最大の社会福祉法人はこの無料低額診療を主たる事業とする済生会で、一法人で7千億円超の事業収益があります。
厚生労働省より引用:社会福祉法第2条第3項に規定する生計困難者のために無料又は低額な料金で診療を行う事業について
全国福祉医療施設協議会ホームページ参考:全国福祉医療施設協議会 – 無料低額診療事業
結果的に、社会福祉法人の医療事業は、以下の事例が存在しています。
(1)社会福事業のみで行う法人
(2)公益事業のみで行う法人
(3)社会福祉事業でも公益事業でも行う法人
また、例えば医療法人の医療事業は法人税が課税されますし、社会福祉法人であっても医療保健業は収益事業に該当しますので、原則的には課税されます。しかし、社会福祉法人の医療保健業は収益事業から除外するという非課税規定がありますので、社会福祉法人に限っては課税されることはありません。

落とし穴4:社会福祉事業の定員による除外規定
非常に難しい論点です。
社会福祉法の2条に社会福祉事業から除外される事業の規定があり、2条の4項の4に以下のような記載があります。
| 「第一種社会福祉事業及び第二種社会福祉事業に掲げる事業であつて、常時保護を受ける者が、入所させて保護を行うものにあつては五人、その他のものにあつては二十人(政令で定めるものにあつては、十人)に満たないもの」 |
入所系は5人未満、通所系は20人未満、政令で定めるものは10人未満の定員の施設は社会福祉事業に該当しないと読めます。そのまま解釈してしまうと、社会福祉法人が行う小規模な事業の多くは公益事業に該当してしまうことになります。
社会福祉事業は、最低定員が20名未満のものや最低定員が無いものがたくさんあり、杓子定規に解釈すると社会福祉事業でなくなってしまう事業が多発してしまいます。
しかし、この規定の立法趣旨は、社会福祉法人のための規定というより、社会福祉法人以外の法人が小規模な社会福祉事業をする時に社会福祉事業から外すことによって社会福祉法人独特の規制を少なくするための格上げ目的で、社会福祉法人が行う社会福祉事業を定員により公益事業に格下げする目的ではないようです。
したがって、個別法と認可の段階で、社会福祉事業とするものと公益事業にするものに分かれます。
例えば、放課後等デイサービスは第二種社会福祉事業で、最も単価の高い最低定員の10名で運営する社会福祉法人が多いですが、定款には第二種社会福祉事業の障害児通所支援事業で記載されている法人が多いと思います。
ただ、注意しなければならない事業もあって、政令に定める10名未満は公益事業に格下げされる事例があります。特に小規模保育事業は要注意です。
社会福祉法施行令の1条の最低人員の特例に3つあります。
| (1)生活困窮者自立支援法に規定する認定生活困窮者就労訓練事業 |
| (2)児童福祉法第六条の三第十項に規定する小規模保育事業 |
| (3)障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に規定する地域活動支援センタを経営する事業又は障害福祉サービス事業のうち厚生労働省令で定めるもの |
認定生活困窮者就労訓練事業は最低定員が無く、小規模で運営している法人が多いと思いますが、公益事業で認可されている事例があります。
小規模保育の最低定員は6名で、はほとんどの事例が定員12名から19名ですので10名未満には該当せずに社会福祉事業に該当する法人がほとんどですが、定員が9名以下は公益事業になりえます。
障害者総合支援法の障害福祉サービス事業は、基本的には最低定員が10名又は20名なので、9名以下になる事例は少ないので、例外的な事例となると思われます。

まとめ
社会福祉法人が行う社会福祉事業、公益事業、収益事業は定款に記載する必要があり、所轄官庁の認可を受けますし、問題があれば認可されず指導されますので、実務上悩むことはないと思いますが、社会福祉法人に携わる人は知識として知っておいて損はありません。
(1)社会福祉事業は社会福祉法2条、公益事業と収益事業は社会福祉法26条に定められた事業です。
(2)本来、公益事業であるが、社会福祉事業に混ざる場合があります。
(3)本来、収益事業であるが、社会福祉事業に混ざる場合があります。
(4)社会福祉法人の医業事業は、社会福祉事業と公益事業が別にあり、両建てしている法人もあります。
(5)社会福祉法の除外規定により、本来社会福祉事業であるが、定員規模により社会福祉法人以外の法人が規制を受けずに行えたり、稀に、本来社会福祉法人が行う社会福祉事業だが定員規模によって公益事業に格下げされる場合があります。
厳密に言うと、社会福祉法や政省令の論点と、児童福祉法や障害者総合支援法などの個別法の論点、行政の通知や認可の論点、会計の論点、税務の論点はその根拠が全て違っていて、一見矛盾して見えたり、適用の優先問題があり簡単に説明できない面があります。
ただ、基本的なルールは決まっていますので、そのルールを基に考えて行けば、ある程度は理解できますし、限界はありますが、比較可能性も期待できます。
特に、法人税、消費税、固定資産税などの税制面は、上記の法令用語や会計の区分を前提としますので、更に難しくなります。
当事務所は、社会福祉法人の会計や税務に特化した会計事務所ですので、様々なお悩みに対応できる可能性があります。社会福祉法人の会計や税務で、お困りごとがありましたらお気軽にご相談下さい。
