税理士が感じた社会福祉法人が生き残るためのWEB戦略
社会福祉法人に関するセミナーに参加すると、目の前のプレゼンテーションに人口減少・物価上昇によるコスト増加・赤字施設の増加のいずれかのグラフが必ず出てきます。
そして厳しい言葉が並びます。このまま行けば社会福祉法人は存続が難しくなります。
今までとは違う何らかの対策が必要です。
状況の深刻度合いは違うものの筆者が社会福祉法人の職員だった約20年前から同じことが言われてきました。
戦後の社会福祉政策を担ってきた社会福祉法人はどのように生き残るべきか、社会福祉法人の職員として、あるいは税理士として23年間の経験を踏まえた考えをお伝えします。
目次
社会的な環境が変わってしまった問題
社会福祉法人の経営者の方々とお話していると、現在の経営環境はアクセル戦略から既にブレーキ戦略に変わっているという方が多いです。どう事業を拡大するかではなくどう事業を縮小して生き延びるかです。本来はそちらに尽力するべきではないが、そうせざるを得ないと口を揃えます。社会福祉法人自体が無くなってしまうのが最悪のシナリオだからです。
一方で社会的意義が大きな事業を一度辞めてしまうと、再開することはできないため、地域の利用者が難民化してしまうリスクを防ぎたいという思いが縮小戦略のブレーキになっているようです。しかし、赤字は最終的に誰かが負担しなければなりません。
今から20年前よりも建築費や人件費が激増する一方で、給付金や助成金はせいぜい現状維持かわずかな増加にとどまる訳ですから苦しいのは無理もありません。
現実問題として、建築コストの増加から、老朽化した建物の建て替えも新設も難しいので現状をどうやって維持しながら経営していくかということにならざるを得ないと言います。根本的な解決はもう無理かもしれないという実感があるようです。
2000年以降に介護保険法や利用契約制度を作った厚生労働省の元局長と年に数回直接お話する機会がありますが、自分が作った制度は、デフレという停滞した環境下で設計された、外部変化に弱い制度でした。物価が上がらない冷凍庫の中で作った「箱入り娘」と例えられるような性質がありましたが、制度創設以来初めて物価上昇局面に遭遇し、制度設計そのものの規制緩和と、社会福祉法人側のマインドを変えないと社会福祉法人は生き残っていけないと断言しています。
総じて、今までとはレベルの違う生き残り戦略が必要だというのが多くの実務経験者の共通認識です。

生き残るために絶対に必要なWEB戦略
社会福祉法人に関するセミナーを主催する団体に社会福祉法人のWEB戦略の回の応募状況を聞くと、反応が良く強い興味を持っていると言います。
WEB戦略の必要性は感じているが、その可能性を生かし切れていないと感じている社会福祉法人が多いようです。
大きなニーズの一つが集客でもう一つは人材確保です。一つのツールで収益獲得(集客)と費用削減(紹介料などの削減)が期待できるのですから当然です。
ホームページは、ドメインとレンタルサーバーのコストは少額ですし、ワードプレスやGoogleアナリティクスなどの必要ツールは無料です。
プログラムコードさえ分かれば、ほとんどコストをかけずに無限にチャンスを創出できるのですから使わない手はありません。
ただし、そう簡単にいくなら誰も苦労しません。昔のようにホームページを作れば集客できる時代でもありませんし、ホームページを作っただけでは誰も見てくれません。ほとんどの社会福祉法人ではプログラムコードは分かりませんし、デザイン性も必要ですが魅力的に作れるプロには敵いません。もし、メリットを享受したいのであれば相当に努力してWEBを有効に機能させる必要があります。

戦略としては二つの戦略が考えられます。
一つは、熱量を持って正面突破する方法です。今回の記事はこの方法です。真面目にやれば検索の上位は狙えます。大変ですが、生き残りを考えるなら、得るものが大きいです。
社会福祉法人は極めて専門性の高い事業で、長期経営が前提です。ホームページ自体はあるでしょうからドメイン運用期間(ドメインエイジ)による信頼性も確保できると思いますので、SEO対策の強化が基本戦略になると思います。
もう一つは、ショートカットする方法です。
例えば、ガチガチのテンプレートを使ってホームページをタダ同然で作成する。他者のプラットフォームの中にホームページを作成する。広告費を払って、検索上位に上げるなど。
このような方法は、練習としてやってみる等は良いと思いますが、内部構造の最適化(内部SEO)は期待できないし、他者のプラットフォーム依存でホームページそのものが消滅するリスクもあるし、熱量がないページは広告費を使って上位に上げても、結局離脱率が高いまま読まれないなど、社会福祉法人の生き残りを考えるとあまりお勧めできない戦略です。
例えば、新規の社会福祉法人はSEO対策をしても時間的に間に合いません(最低半年から1年はかかる)ので、広告費を払ってしばらく開設のアピールをして徐々にSEO対策に変えていくなどは合理的で賢明な方法です。
あるいは、一回限りのイベントやコラボ企画を広報するために、簡単に作成して、広告費をかけても短期で検索上位に表示する「使い捨て作戦」には向いていますが、そもそも、ホームページはお金ではなく手間をかけて、こちらの本気や魅力を長期的に伝えるツールであることを考えると、社会福祉法人の場合、ショートカット戦略は補完的な方法として選択した方が良さそうです。

筆者のSEO対策の経験から言えること
筆者がSEO対策の勉強をしていた時に、セミナーで印象に残った言葉があります。
もしあなたが繁盛するラーメン屋を作りたいとしましょう。まず、コンテンツと言われる①味が良い・安い・量が多いなどユーザーにとって魅力のあるラーメンを作れる技術が絶対的に必要です。
WEB戦略で美味しいラーメンは作れるようになりません。
次に、②店を構えますが、人通りの多い場所(土地の格)は取り合いになりますので賃料が高いです。③その後にシャッターを開けて暖簾を掲げればお客さんが入ってきます。
②はドメインパワーで③が内部構造の最適化(内部SEO)といわれ、WEB対策は②と③であり、競争が厳しいのは②で、最終的には①が重要と言われました。
場所の取り合いに、かなりのエネルギーが必要で、大抵の方はそこで諦めてしまうとのことです。
いくら美味しいラーメンが作れても場所がなければ売れません。また、大金を使って良い場所を確保してもラーメン自体に魅力がなければ売れません。生き残るためには、この2つの要素が必要です。魅力あるコンテンツとドメインパワーです。
最低限の努力として、自分のホームページに毎日どの程度のアクセスやアクションがあるのか解析ソフトを使って把握し、どのようなことをした時に数値が伸びているのか把握することを勧められました。
筆者も、実際にホームページを作って集客できるようになりましたが、振り返ってみると確かにその通りだと思いました。

社会福祉法人にとって魅力的なラーメンとは?
集客の観点でいうと利用者目線になります。
全国の成功事例を見てみると、一つは、制度外サービスが注目されます。
制度外サービスといっても制度の中の自己負担という概念と、制度の外の事業としての制度外サービスがあります。
一般的に、制度が想定していないサービスはできないとして断るケースが多いと思いますが、そこを断らずにニーズに応じる事によって他法人と差別化し競争力を付けるという戦略です。
他の法人がやらないことをやり、公的な補助を得ずに事業の採算を合わせる必要がありますので、社会福祉法人にとっては難しいことですが、株式会社にとっては当たり前のことです。制度外サービスを確立することは非常に重要な視点です。
社会福祉法人は、制度内の決まったことをやるのは得意ですが、制度外の事を行い採算を合わせるのは苦手な文化があります。競争力を身に付け、その苦手意識を克服する必要があります。
もう一つは、地域貢献です。
社会福祉法で義務付けられている公益的取り組みと、公益事業や収益事業として地域活動を行うものがありますが、ストーリーを作り、地域で選ばれる社会福祉法人になるという戦略です。
結局のところ集客は地域の利用者ですし、人材確保は大半が地域の方です。地域戦略は必須です。
2000年以降、たくさんの株式会社が第二種社会福祉事業に参入するようになり、社会福祉法人は戦後初めて競合相手に遭遇しました。しかし、いまだ措置費時代同様に助成される社会福祉事業や公益事業しか行っていない社会福祉法人がほとんどです。株式会社同様に助成のない事業で採算を合わせて社会貢献するという発想が必要です。
次に、人材確保の観点でいうと、従業員目線になります。
最近よく聞く言葉に、「従業員ファースト」や「スタッフファースト」があります。
従業員は「利用者ファースト」ですので、役員や管理部門の人間が「従業員ファースト」を行いその様子を広く伝えていくという戦略です。
成功事例として、自法人のホームページやSNSで人材確保できている社会福祉法人があります。そして、有料の人材サイトの条件で集まってきた人より、無料のホームページやSNSの記事に魅力を感じてきた人の方が定着率は高いそうです。当然の事かもしれませんが、実力があれば一石二鳥なのです。

社会福祉法人にとってラーメンの店舗とは?
自法人のドメインにパワーが必要です。パワーがないといくら良いページを作っても誰にも見てもらえません。パワーはAI(検索エンジンのアルゴリズム)による評価であり市場からの信頼と言えます。
良い場所は取り合いですので、簡単には取れません。しかし、良い場所でないと人目に触れません。
SEO対策は、Google対策以外にも考えられますが、基本的にはGoogle対策で良いと言われています。GoogleやMicrosoftは権威性を独自の方法で判断し人類に有益なホームページを上位に表示する方針にしていますので、人類に有益な情報を上げ続けてページの信頼を積み上げるしか方法がありません。
クローラーと言われる情報収集係が、インターネット上の情報を収集してGoogleのデータベースに登録しますが、全ての情報を収集できないため、情報に信用がないと収集もしてくれませんし、登録もしてくれません。登録してくれたとしても、価値がないと判断されれば上位表示されません。AIで価値があると判断されることが重要です。薄っぺらなものは評価されません。
更に、内部構造の最適化(内部SEO)と言われる、ホームページの構造がGoogleの推奨する構造になっていてユーザーにとって使いやすいものである必要があります。そうしないとホームページ自体が信用を得られません。例えば、動作が遅い等、ユーザーがストレスを感じるホームページの作りは永久に信頼が得られません。
ホームページが稼働した後は、一般的にPV(ページビュー)といった見られた回数が月に1万件から2万件を超えてくると、目安として上位2割程度に入ると言われ、かなり信頼性があるドメインになっています。この状態で魅力的な集客や採用ページを作っていくと上位表示され、たくさんの人の目に触れて、反響が出るという流れになります。
ホームページ開設当初はドメイン運用期間(ドメインエイジ)も実績(信用)もないため、なかなか厳しいですが、社会福祉法人の場合、平均で週に1~2回のページの更新により、もし、更新の都度100~200のPVの増加が見込めれば、1年~2年で1万PVを達成するペースですのでベストシナリオに近いという印象があります。
Googleアナリティクスの平均エンゲージメントは3分以上が理想ですが、2分程度大きく下回っていなければ順調と言えます。
その後は、数年をかけて数万件を達成できれば、かなり優れたホームページと言えると思います。
ただし、目標を達成するためには魅力的なコンテンツを出し続けなければならないので、それなりに大変ということは間違いありません。また、記事数は多ければ多い程アクセス数が増えると思われがちですが、質の低い記事を大量に出してしまうとホームページ全体の評価が下がり逆効果です。更に、公開した記事は出しっ放しで良いわけでなく定期的なメンテナンス作業(リライト)も必要になります。
アクセス数の増加が目的ではありませんが、結果的に継続しなければ、信用が得られず埋もれてしまいますので、ベストシナリオでなかったとしても継続し(更新し)、改良し続けることが最も重要です。

まとめ
戦後の社会福祉法人は、社会福祉事業を愚直に行い、助成や支援が受けられる公益事業に邁進していれば生き残ってこられました。
2000年以降の措置制度から利用契約に変わった後も、物価が上がらないデフレであり、安定収入とコストが上がらない環境は、社会福祉法人にとってむしろ有利な環境でした。
しかし、物価が上がり始めると一転して、収入があまり上がらずにコストが上がり続けるという厳しい環境に直面しています。
筆者が考える社会福祉法人が正攻法で生き残っていく方法は、
(1)利用者目線で制度外の魅力のあるサービスを創設してそれを伝える必要があります。
(2)職員ファーストなど職員にとって魅力ある職場にしてそれを伝える必要があります。
(3)自法人のホームページのドメインパワーを強くするため、魅力のあるコンテンツを投稿し続けることが求められます。解析ソフトを使って、アクセス状況を毎日確認しましょう。
(4)強いドメインとSNSを駆使して、集客や人材採用を行い、独自のルートで市場から自法人に必要なものを調達することが鍵となります。
繰り返しになりますが、美味しいラーメンを作る技術と良い場所に店舗を出す努力の両方が必要です。
当事務所は、SEO対策を得意とする方々と連携して社会福祉法人の方々や税理士の方々と研究会や勉強会を行っております。
WEB戦略は単なる広報ではなく、採用コストの削減と稼働率向上を同時に実現するためのエネルギーの「投資」です。貴法人の5年後、10年後の生き残りを見据え、筆者の経験を踏まえた上で具体的な改善シミュレーションをご希望の方は、ぜひ一度お話をお聞かせください。
