「社会福祉法人とは?」その存在意義と歴史を税理士が解説!
社会福祉法人は非課税法人などと言われますが「なぜ非課税なのか?」その答えを正しく語れる人は意外と多くありません。「社会福祉法人とは?」現場経験20年の専門税理士が、教科書的な解説では届かない歴史の裏側を紐解きます。
制度の「本質」を知ることは、混迷を極める現代経営において最強の武器となりえます。
私自身、20年以上社会福祉法人の職員を務めていましたが、当時は分かっていなかった側面があるのは否めません。今回は歴史や連続性を意識して、社会福祉法人の真の姿を解説します。
目次
戦前の社会福祉について

戦前の社会福祉は、善意を活用した民間が中心だったと言われています。
例えば、篤志家や宗教家の様な使命感を持ったボランティアや家族や地域の任意団体などが行い、福祉は国でなく自分たちで行う(行わざるを得ない)という考えが強かったようです。
我々現代人は福祉は国が行うものというイメージを持ちがちですが、そもそも国でなく様々な民間人がバラバラに担っていて、国には福祉に関するノウハウが無かったという歴史の認識が大切です。
戦後間もなくの社会福祉政策
戦後の福祉は日本国憲法の制定により転換を迎えます。
日本国憲法は103条ありますが、社会福祉法人にとって非常に重要な条文が二つあります。25条と89条です。
社会福祉法人と憲法25条
| 憲法第二十五条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。 2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。 |
有名な生存権の条文ですが、憲法第25条では、国民の生存権と国の社会保障義務が定められています。これにより、それまで「民間の善意」に頼っていた社会福祉は「国の責任」へと転換されました。しかし、責任が国に移ったからといって、現場のノウハウを持たない国がすぐに直営で事業を行えるわけではありません。ここに、国が民間団体を「社会福祉法人」として位置づけていく根本的な必要性が生じたのです。

社会福祉法人と旧民法34条法人
公益法人は、もともと、明治31年(1898年)に施行された旧民法34条により規定されていました。
| 「学術、技芸、慈善、祭祀、宗教その他の公益に関する社団または財団であって営利を目的としないものは、主務官庁の許可を得て、法人とすることができる。」 |
社会福祉政策は民間が担っていましたので、憲法が変わったからといって、国が即座に実施体制を整えることは困難です。国はどうしても民間の力を借りる必要がありました。
上記の公益法人は現在の社団法人や財団法人ですが、この法人に社会福祉政策を委託できれば良かったのですが、それはできない理由がありました。
GHQは、国が社会福祉政策を民間に丸投げして多額の公金が歯止めなく流出することを懸念しており、財政的な側面から規制を行わせました。それが、民間団体に公金の支出を禁止した憲法89条問題です。
なぜ社会福祉法人は公金を直接受け取れるのか?(憲法89条問題)
| 憲法第八十九条 公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。 |
憲法89条は公金支出禁止規定といわれ、国において社会福祉事業が行われることが想定されており、公金を民間の法人に直接入金して社会福祉事業を行うことができないことになっていました。
そこで、国は、公の支配下に属する特別法による法人を新たに作り、そこに公金を支出して社会福祉事業を行うことが考え出されました。それが社会福祉法人です。現在は、指導検査などを通じて、社会福祉法人は公の支配下にあるため公金を直接入金できると解釈されているのです。
したがって、社会福祉法人は旧民法34条の特別法法人という側面と、公の支配下にあることを根拠に、公金を直接受け取って社会福祉事業を行うことができるという側面があり、第1種社会福祉事業と第2種社会福祉事業は、社会福祉法の規制と憲法89条の規制により、法的な制限はなかったが、公金が受けられないため実質的に社会福祉法人が独占する状態が続きました。

2000年以降の措置から利用契約への転換
社会福祉法人にとって大転換期を迎えます。2000年以降に介護保険制度が導入され旧来の措置制度から利用契約制度に転換したことです。
この制度が生み出された大きな理由としては、社会福祉法人に独占されていた社会福祉事業に対して、財源不足から規制を緩和して、更に民間の力(特に株式会社)を借りる必要が背景にあったと言われています。
法定代理受領制度の創設
社会福祉事業を株式会社に開放する際に、問題になる点が2つありました。一つは憲法89条の問題と、もう一つは社会福祉法内の社会福祉事業の規制です。
株式会社などの一般法人が参入するにあたっては、社会福祉法人とは異なり「公の支配」の要件を満たさない懸念があったため、国は代理受領制度という仕組みを再構築し、措置という行政処分から利用契約という利用者と施設の契約により、施設が利用者から入金する仕組みを作りました。
代理受領という形式を取ることで形式的には公金が施設に入りませんが、財源が公金であるため、実質的には公金の入金ではないかという議論はあるものの、この制度により、公金が直接施設に入らないため、憲法89条問題は回避できると解釈されています。
次に、社会福祉法上の規制ですが、第1種社会福祉事業は社会福祉法人か行政(国、地方公共団体)しか行えないという規制がありましたが、第2種社会福祉事業に対する規制はありませんでした。しかし、上記の憲法89条問題があったため参入することはできませんでしたが、このストッパーが法定代理受領制度で外れたことにより、株式会社の社会福祉事業への参入が大きく進むことになります。
この一連の動きが第2種社会福祉事業の株式会社等への規制緩和です。

株式会社参入の鍵となった「法定代理受領制度」とその落とし穴
代理受領制度によって、憲法89条問題がクリアされたのは良かったのですが、その後問題が生じました。
施設整備補助金問題です。施設整備補助金は代理受領できませんので、法人に直接公金が入ります。したがって、代理受領制度が始まった当初は、憲法89条問題を理由に、社会福祉法人しか施設整備補助金は受け取れず、株式会社等は受け取れない制度設計になっていました。
しかし、施設整備補助金を受けて採算を合わせることが想定されていた第2種社会福祉事業は、施設整備補助が受けられないと採算が取れずに、株式会社が参入してこないことが分かりました。これでは、せっかく新たに制度設計したことが無駄になってしまいかねません。そこで、国は方向転換して、株式会社でも施設整備補助金を受けられることにして、その代わりに補助金を受ける部門を公の支配下に入れるという選択をしました。
制度設計当初は、社会福祉事業を行う株式会社は、企業会計で処理すれば良いと言っていましたが、途中から社会福祉法人会計で処理するように所轄官庁より強い要請を受けるように変わったのは、このような事情によります。公の支配下に入れるという運用は、社会福祉法や社会福祉法人会計基準が前提となっており、企業会計では指導監査が困難であるためです。
現在は、補助金を受ける事業区分において、社会福祉法人会計基準に準拠した区分経理が求められ、事実上の強制と言われています。したがって、現在第二種社会福祉事業を行う株式会社は、会社法や金融商品取引法の前提となる企業会計基準と社会福祉法人会計基準の二重基準への対応が求められております。

イコールフッティング(競争条件の同一化)問題
株式会社に第2種社会福祉事業が規制緩和されたことによって、例えば認可保育園は、株式会社は法人税も固定資産税も課税である一方で、社会福祉法人は非課税というのは公平なのかという問題が指摘され始めました。
或いは、NPO法人が行う介護事業は課税なのに、社会福祉法人が行うと医療保健業として非課税になるのは、同じ公益法人等なのに不公平ではないかという問題も指摘されています。
社会福祉事業を社会福祉法人以外に規制緩和したことによって様々な問題が出ています。
一方社会福祉法人側からも、採算が合わないと利用者を切り捨てたり撤退することは社会福祉政策とは馴染まないという批判や、税金が配当に回ったり、株式が譲渡されて個人に利益が生み出される仕組みに対して批判があります。

まとめ
社会福祉法人は、単なる非課税法人ではありません。歴史を紐解けば、憲法が定める「生存権」と「公金支出の制限」という高いハードルをクリアするために誕生した、極めて公共性の高い特別な存在であることがわかります。
(1)戦前の社会福祉は国でなく民間が中心に行われていました。
(2)戦後は日本国憲法第25条によって社会福祉政策は国の責任になりました。
(3)国が民間に委託したかった社会福祉事業は、憲法89条問題によって、公益法人である旧民法34条法人に社会福祉事業を委託できませんでした。
(4)憲法89条問題を回避するため、国は公の支配下に入る特別な法人を新たに作り出すことを考えました。それが社会福祉法人です。
(5)2000年以降に更に民間の力を借りて財政不足を解消するため、国は措置から利用契約制度に政策を変更し、法定代理受領制度を創設しました。
(6)法定代理受領制度により、株式会社等が第二種社会福祉事業に参入し、施設数が大きく増加したとともに新たな問題も生じるようになりました。

社会福祉制度の「本質」を知ることは、経営の武器になりえます。
現在、人口減少や物価が上昇する経営環境の中で、「効率性」を求められる社会福祉法人は厳しい局面に立たされています。しかし、営利追求を目的とする株式会社とは異なり、「地域福祉の最後の砦」として撤退せずに自助努力により支え続けることは、社会福祉法人にしか果たせない使命であり、社会福祉法人への期待です。
誰かがやらなければならない「非効率」は、社会福祉が地域に必要とされている証でもあります。 効率性だけでは救えない命や生活を守るために、この複雑な制度は存在します。だからこそ、経営層だけでなく、現場の職員一人ひとりが「我々がやらねば誰がやる?」と自分たちの存在意義を胸を張って語れることは、最強の推進力であり社会福祉法人特有の経営基盤ともなりえるのです。
制度の成り立ちや歴史的背景を正しく理解することは、単なる知識の習得ではありません。それは、行政との交渉、地域住民への説明、そして「自法人がなぜ存在するのか」という理念の共有や経営指針の再構築に直結する重要なプロセスです。
筆者は20年以上の現場経験を持つ元職員であり、現在は社会福祉法人専門の税理士として、数多くの社会福祉法人様を支援しています。「現場の痛み」と「制度の限界」の両方を熟知しているからこそ、形式的な正義に留まらない、一歩踏み込んだアドバイスが可能です。
「新旧の制度変更に、現場の理解が追いついていない」
「理念を共有して経営改善が必要だ」
「自法人の公益性や使命を、改めて職員や地域に再認識してほしい」
このようなお悩みや、社内研修・同業者団体での講演依頼がございましたら、ぜひお気軽にご相談ください。歴史と制度を味方につけ、次世代に選ばれる社会福祉法人づくりを共に目指しましょう。
