社会福祉法人会計の国庫補助金等特別積立金の積立と取崩しを解説!
「国庫補助金等特別積立金」について、自信を持って説明できる方はどの位いるでしょうか?
未収金や借入金のような分かりやすい勘定科目でないので、よく分からないという方も多いと思います。
実務の現場において、この論点は非常に難解です。ネット上の解説記事には、既存の参考書を丸写ししたものや、国の公式見解と相違しているものも見受けられます。
本記事では、専門用語を極力抑え、制度の意味と「指導監査で指摘されやすいポイント」を中心になるべく分かりやすく解説します。
実務で迷った際のガイドとしてご活用ください。

目次
なぜ「国庫補助金等特別積立金」が必要なのか?
この制度の最大の目的は、「利用者の負担を軽減すること」にあります。
補助金(公金)で施設を整備した場合、その分コスト(減価償却費)を圧縮(相殺)し、浮いた資金を工賃や福利厚生に充てるべきという考え方が根底にあります。 この「コストを相殺する」という趣旨を理解することが、理解の第一歩です。
制度の変遷
国庫補助金等特別積立金制度は、平成12年の会計基準の改正(いわゆる「12年基準」)により導入されました。それ以前は、基本的に損益計算をしていませんでしたので、積立や取崩しも行っていませんでしたし、概念自体も存在していませんでした。
12年基準により導入されたこの制度は、平成23年の会計基準の改正(いわゆる「23年基準」)によって、主に以下の要素が変更され現行規定となっており、この改正により更に難易度が増しました。
(1)固定資産以外(消耗品などの費用)でも積立をして即時取崩しをする概念が加わりました。
(2)借入金の償還補助金の積立が加わりました。

積立金の概念
国庫補助金等特別積立金は、施設及び設備の整備のために国、地方公共団体等から受領した補助金、助成金、交付金等の額を計上します。杓子定規な理解でも間違いではありませんが、注意点は以下の通りです。
(1)借入金の元金に対する補助金を含みます。
(2)地方公共団体等から無償又は低廉な価格により譲り受けた固定資産の評価額を含みます。
(3)民間団体の助成や共同募金会からの配分金も含む場合があります。
制度の趣旨
繰り返しになりますが、一言で言うと取崩し収益による「減価償却費との相殺」です。
この制度の目的をシンプルに言うと、「減価償却費(コスト)を減らすこと」です。
毎年発生する「減価償却費」と同様の期間で配分した「補助金収益の取崩し」を計上してぶつける(相殺する)ことで、計算上のコストをゼロに近づけます。もし事業収益が同額なら、コストが減れば利益が残りやすくなり、その分を利用者の工賃や福利厚生に充てることができるという考え方です。
ポイントは、誤解を恐れずに言うと「収益の期間配分」 です。
補助金を一度に全額「収益」として計上してしまうと、その年だけ利益が膨らみ、翌年からは減価償却費の負担だけが残ってしまいます。 これを防ぐために、「減価償却費が発生するタイミングに合わせて、少しずつ補助金を収益にしていく(取り崩す)」のが、この制度の目的です。
専門的には「圧縮記帳」と呼ばれ企業会計から一部を加工して取り込まれたものですが、社会福祉法人に限って言えば「減価償却費を打ち消すためにある」とイメージすると分かりやすいでしょう。

積立の論点
積立の論点は比較的分かりやすいですが、注意しないと誤解します。
公費として受け入れる施設整備補助金だけでなく、地方公共団体等から無償や低額譲渡を受けた固定資産受贈益、及び借入金元金の補助金や民間の助成金を含みます。
民間の助成金等とは、公益を目的として社会福祉法人を含む広く一般に公募されている助成金が想定されています。
また、共同募金会からの配分金は、受配者指定寄附金(共同募金会を経由して、寄付者である個人や法人が分かる寄附金)以外の配分金も含みます。
複数の施設に跨って補助を受けた場合には、最も合理的な基準に基づいて各拠点に配分します。
現行会計は、固定資産以外の計上の10万円未満の初度設備の費用についても国庫補助金等特別積立金に積み立て、即時取崩しを行います。対象が固定資産に限らないことがポイントです。

取崩しの論点
取崩しは積立より厄介な論点が多いので注意が必要です。
取崩しを想定していない資産がある
非償却資産である土地に対する国庫補助金等は、原則として取崩しという処理は発生せずに、使用している限り将来にわたって純資産に計上され続けます。
即時取崩しする場合がある
12年基準は固定資産限定でしたので、減価償却と対応して取崩し処理が行われていましたが、23年基準以降の現行制度では10万円未満の初度設備に対応する国庫補助金等特別積立金は計上と同時に取崩しを行います。
このルールにより、厄介な問題が生じることになりました。
附属明細書の別紙3⑧の基本財産及びその他の固定資産明細書にある、内書きの取崩し額と事業活動計算書の取崩し額の合計額が一致しなくなってしまいました。固定資産明細書は固定資産の取崩しに限り、事業活動計算書は固定資産に限らないためです。
この不一致については、指導監査で何度も理由を質問された経験がありますが、、適正な処理をしているにも関わらず質問される代表的な論点です。以前の会計基準は必ず一致していたため、経験者ほど誤解しやすい論点です。

取崩額の計上区分が2か所に分かれる
通常の減価償却費に対応する国庫補助金等特別積立金の取崩しは、事業活動計算書のサービス活動費用の減価償却費の下で費用の控除項目として計上します。
一方、国庫補助金等特別積立金の対象資産となった資産が廃棄又は売却されたことに対応する取崩しは、事業活動計算書の特別費用の控除項目として計上され、計算書類に対する注記に取崩し額を記載しなければなりません。
取崩し額は、1ヵ所で計上されるとは限りません。
| 取崩し理由 | 計上区分(事業活動計算書) |
| 通常の減価償却 | サービス活動の費用(減価償却費の下) |
| 資産の廃棄・売却 | 特別増減の費用(+注記) |
国庫補助金等特別積立金の備忘価格
国庫補助金等特別積立金は、減価償却資産と類似した概念で、プラスマイナス反対の効果がありますので、備忘価格の1円はどうなるのかという疑問が生じます。
ネット上の記事や参考書に、資産に対応させて1円を残して取崩しを行うという記事が散見されますが、1円は残す必要はなく0円まで取崩しを行うべきです。
平成23年の改正時にパブリックコメントに対する別添回答が国から出されており、81番で厚生労働省の公式見解として1円を残す必要はないと記載されているためです。

積立を行う前に取崩しを行う場合がある
23年基準で借入金元金償還補助金も対象になりました。これが非常に厄介な問題を誘発しまして、この補助金は分割して将来にわたって入金される性質があり、積立は原則通り入金の都度積立を行います。
一方、取崩しは、補助金全体と購入した資産の総額でのバランス(補助割合)で行いますので、まだ補助金を貰っていない(積み立てていない)部分も含めて取崩しを行います。
減価償却は、まだ購入していない(資産計上していない)資産の償却などありえませんので、全く異なる概念であることがご理解頂けると思います。
総額は計画ですので、計画に変更があれば取崩し額も過年度修正が必要になります。
また計上していない金額を先行して取崩しを行っていますので、計画の金額と実際の帳簿金額が異なります。
附属明細書の別紙3⑧の将来入金予定の償還補助金の額という行がありますが、附属明細書は計画(入金前の総額)で行い、この行で入金予定金額をマイナスし当期に入金された金額をプラス調整することによって貸借対照表の国庫補助金等特別積立金の残高と附属明細書の期末帳簿残高を差引欄で金額を一致させることになります。

まとめ:ソフト任せは危険!複雑な検証こそ専門家へ
本記事では、国庫補助金等特別積立金の複雑な仕組みについて解説しました。
ポイントを整理すると以下の通りです。
目的: 利用者の負担軽減(減価償却費との相殺)が本来の趣旨です。
歴史: 平成12年基準で導入され、平成23年基準でさらに複雑化しました。
範囲: 施設整備だけでなく、借入金元金償還や初度設備(消耗品などの費用)も対象です。
注意点: 「即時取崩し」「備忘価格は0円」「未入金での先行取崩し」など、実務家の直感に反するルールが多数存在します。
「減価償却ソフトの自動計算を使っているから大丈夫」と考えている方は、少し注意が必要です。 確かに計算や取崩しはソフトが自動で行いますが、それは「最初の設定」や日々の「入力の仕訳」が正しいことが大前提です。
積立そのものを忘れていませんか?
即時取崩しすべきものを、計上したままにしていませんか?
仕訳はしたけど、固定資産台帳の設定は漏れていませんか?
附属明細書の不整合を、指導監査で指摘されたことはありませんか?
これらはソフトでは検知できず、担当者の知識と判断だけが頼りです。特に「附属明細書の調整」や「将来入金予定の処理」は、指導監査でも頻繁に指摘される論点であり、多くの法人が頭を抱えるポイントです。
指導監査で指摘される前に考えておきたいことは、国庫補助金等特別積立金は、少しの判断ミスが計算書類全体の不整合につながります。「自信を持って説明できない」「前任者の処理を踏襲しているだけ」という不安があれば、トラブルになる前に専門家の目を入れることをお勧めします。
当事務所は、社会福祉法人会計特有の難解な論点に多くの実績がございます。 「別紙の数字が合わない」「正しい処理か確認してほしい」など、些細な疑問でも構いません。まずは無料相談から、お気軽にご相談ください。
