社会福祉法人専門税理士から見た社福に特徴的な業務・サービス5選
今回は、社会福祉法人に特徴的な業務をピックアップして解説します。
社会福祉法人の職員の方にとっては、社会福祉法人に特徴的な業務といってもピンとこないかもしれませんが、新たに就任した経理の幹部や役員、社福の経験が少ない新任の税理士にとっては必ず知らなければならない内容です。
逆に言うと、知らないと事故を起こしやすい危険な業務でもあるとも言えます。
この記事は、新たに社福の監事に就任した方に最初に知っておいて頂きたいお勧めの記事でもあります。予見可能なリスクは、ここで把握してしまいましょう!
目次
1.弾力運用通知対応業務
社会福祉法人の業界は2000年を境に措置費制度から利用契約制度へと大きく変化しました。
それに伴い社会福祉法人全体の規制もかなり緩和されましたが、現在でも認可保育所事業は以下のような厳しい資金規制が残っており、いわゆる弾力運用通知と言われる254通知から256通知(平成27年9月3日)に対応する必要があります。
連続で違反すると、自治体から文書指摘の他に加算の停止処分となります。
1.他拠点への繰り入れ規制
弾力運用通知の要件を満たさないと、法人内部取引であったとしても他拠点への資金の繰入は認められません。
2.繰り入れ後の使途規制
当期の委託費を財源とした保育所から保育所への繰入でも、前期末支払資金残高を財源とした保育所から本部への繰入でも繰り入れたお金は使い道が定められています。それ以外には使えません。
3.前期末支払資金残高の取崩しの事前承認規制
使用前に自治体に事前承認手続きをしなければなりません。社会福祉法人は理事会の議決で代替できます。
4.30%基準規制
当期末支払資金残高は当期の委託費収入の30%以下に納めなければなりません。超過する場合は、積み立てをする必要があります。
5.収支計算分析表の提出義務
以下の場合には、決算書とは別に収支計算分析表を提出しなければなりません。以下に該当しない場合でも自治体の要請により提出を依頼される場合があります。
(1)限度額を超えて弾力運用を行った場合
(2)委託費の支出が経理等通知の定めによっていない場合
(3)積立資産への積立支出及び当期資金収支差額合計が、事業活動収入計の5%を上回る場合
2. 就労支援会計対応業務
障害福祉施設の会計実務は社会福祉法人会計の中で最も複雑な構造となっています。
1.会計基準の変遷
近年、社会福祉法人の障害福祉施設は会計基準が大きく3回変わりました。
(1)平成13年の授産施設会計基準
(2)平成18年の就労支援会計基準
(3)平成23年以降28年からの新社会福祉法人会計基準
2.会計基準の特徴
就労支援事業は他の事業と異なる所は、補助金や助成金収入と使途の関係の区分に加え、生産活動による収入と生産活動部分の原価を区分経理して利用者工賃を算定する必要があることです。
簡単に言うと、勘定科目、部門が非常に多く計算が複雑な体系になっています。
例えば、水道光熱費という勘定科目は事務費・事業費・製造原価・販売管理費に分かれ、さらに、就労支援のA型・B型・移行支援などに分かれ、その後に、〇〇作業・▲▲作業・□□作業に分解する必要があります。ただし、勘定科目の用意とは別のルールで、事業費と事務費に分かれる水道光熱費・燃料費・賃借料・保険料は原則として事業費に計上する必要があります。
勘定科目・会計ソフトの部門設定・内部取引の取り扱いなどがより複雑になります。また、人件費の一部が、事業活動計算書の人件費科目から外れて就労支援事業の費用に入ってしますので、人件費率の比較可能性を失ってしまいました。複合施設で財務分析をする場合は注意が必要です。

3. 後から気が付く繰入金の規制と年度精算義務の対応業務
公費や助成金は認可された施設(拠点)単位で入金され、その施設で使い切る必要があるため、法人内部の取引に関わらず、拠点間の資金の移動は規制されています。預金口座も拠点単位で分かれているため、この仕組みを理解しないと資金繰り業務はできません。
一般的に資金調達業務は、金融機関からの借入業務を指しますが、社会福祉法人の場合、法人外部からの借入に加え、内部の他拠点からの借入を含むことを明らかにすることが制度上要請されています。
1.資金の貸借(繰替使用)
本部拠点、公益事業拠点、収益事業拠点は社会福祉事業拠点に貸すことはできますが、借りたまま決算を迎えることはできません。
社会福祉施設同士も貸し借りはできませんが、例外的に介護保険施設同士、障害者施設同士、障害児施設同士の拠点は財源が同じなため認められます。
2.資金の繰入れ
配当など法人から外部への資金流出は認められません。
本部拠点、公益事業拠点、収益事業拠点は繰出しを行うことができますが、社会福祉施設は、行う事業により通知で繰出しの規制がされています。規制を理解して繰出しを行わないと、指導検査で指導されるとともに、社会福祉施設への資金の返還が命じらる場合があります。
本部拠点は実費弁償で資金を回収する場合と、繰入で資金を回収する場合は分けて行う必要があり、繰入は各通知の規制を受けます。
本部拠点の役員報酬や理事会開催費用などはこれらの規制を理解しないと財源がないため支払いができません。
4.税理士でも見解が分かれる法人税の収益事業課税の申告業務
社会福祉法人は公益法人等に該当し収益事業のみ課税されます。ただし、課税される収益事業は法人税法の固有概念で社会福祉法上の収益事業とは異なります。同じ言葉でも範囲が全く異なりますので、注意して下さい。
今回は、就労支援事業を例にいかに解釈が難しいかをご紹介します。
以下の通達や文書回答などは法令でないため、国民は強制されるものでなく争う余地はありますが、税務署の職員は強制されますので、国側の解釈として成立します。
1.収益事業課税の規定
法人税法施行令5条に課税される事業が34個限定列挙されいています。
今回の解釈にあたっての他のポイントをあげておきます。
・34事業の中に「請負業」と「医療保健業」が存在します。
・社会福祉法人は特別に「医療保健業」が課税範囲から除外されます。
・34事業は、施行令5条により34事業以外でもその性質上その事業に付随して行われる行為を含みます。
・社会福祉法人は約100種類程度ある法人税法上の公益法人等の一つに含まれます。
・法人税法基本通達15-1-1には、行う34事業の該当する場合、公益法人等の本来の事業であっても課税されるとされています。
・法人税法基本通達15-2-12には、公益法人等が行政から補助金や助成金をもらった場合、固定資産に充てるものは出資的な性質と考え課税しないが、それ以外は課税されるとされています。
2.平成15(2003)年9月16日文書回答
身体障害者福祉法等の障害者福祉サービスに係る支援費サービス事業は「医療保健業」に該当すると国税庁は解釈しています。
社会福祉法人は「医療保健業」なら課税されません。
3.平成29(2017)年7月24日質疑応答事例
公益法人等が行う障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスは、基本的には「医療保健業」に該当しますが、実態によっては「請負業」に該当すると国税庁は解釈しています。
社会福祉法人は「医療保健業」部分は課税さませんが、「請負業」部分は課税されます。
4.平成30(2018)年3月29日広島国税不服審判所採決
就労支援B型事業を行う公益法人等の収益は、訓練等給付費部分の給付金収益は「請負業」に該当し、生産活動部分は「請負業の付随行為」として課税されると裁決しました。
社会福祉法人は「請負業」と「その付随行為」は課税されます。また通達上、収益事業部分の補助金も、固定資産に充てるもの以外は課税されます。
5.通説と異なる解釈
障害福祉施設で行う授産事業の伝統的な解釈は、訓練等給付費部分は第二種社会福祉事業であり34事業のいずれにも該当しない給付金のため非課税となり、その他の補助金も34事業に該当せず非課税となるという解釈でした。
収益の一部である生産活動部分の売上は内容によって34事業に該当する可能性はあるが、工賃払い出しルールにより制度上は黒字にならないため所得が生じないか、たとえ黒字でも障害者が過半数以上従事する事業は特例により非課税となるため、ほどんど課税の可能性はないというものでした。
しかし、近年の国税庁の解釈は全く異なるものです。課税領域が比べ物にならない位に広く解釈されているのです。
5. 最も間違いが多いと言われる消費税法の特定収入の申告業務
数ある税法の中で消費税法が最も事故が多いといわれています。その中でも断トツに特殊なのが特定収入だと思います。条文自体が読みにくいことと、マニアックな論点であるため苦手にする税理士が多いという印象があります。
社会福祉法人業務に不慣れな税理士が消費税の申告書を税務署に提出し、後日税務署から特定収入の計算が漏れているので、修正申告をして追加納税して下さいと言われる事故はよく聞く税理士のミスです。
1.ミスが多くなる理由
特定収入の規定は、社会福祉法人等の特殊法人特有の論点で株式会社や個人事業者には適用されません。いつものように株式会社や個人事業者の考えだけで消費税の申告書を作成すると当然に間違えることになります。
2.特定収入とは何か?
消費税は売上により預かった消費税から、仕入れにより預けた消費税を差し引いて納付税額を計算します。この際、消費税に関係のない取引は、計算の対象から除外します。
例えば、寄付金や補助金です。寄付金をくれた人に、消費税は要求しません。 したがって、寄付金や補助金は消費税の計算の対象外の収入として消費税の世界から除外して構いません。このような対象外の収入の一部が特定収入です。
3.特定収入の再計算の要請
寄付金や補助金でもらったお金は、事前に又は後日お金を使い仕入れが生じます。例えばパソコンを買ったとします。買ったパソコンは消費税を預けて仕入れ税額控除の対象になります。消費税法上は当然の控除です。
しかし、もし収益が寄付金や補助金のみの社会福祉法人のような場合どうでしょうか?
消費税を一切預からずに、仕入れ税額控除だけが生じてしまい、多額の還付が起きてしまいます。
国はその構造を不公平だとして容認しませんでした。
3.特定収入の再計算の方法
特定収入が5%を超える時は、再計算の必要が生じ、2つの属性を区分て集計します。
(1)使途が決まっていて課税仕入れが発生する特定収入
(2)使途が決まっていないの特定収入
上記の2つに分解し、(1)については「課税仕入れに係る特定収入」に区分して、更に、仕入れ税額控除と同様の発想で、個別対応方式だった場合は「課税売上のみ対応」「非課税売上のみ対応」「共通対応」に分解し、一括比例配分方式の場合は「共通対応」に区分して各々の割合で消費税相当額を計算します。
(2)については、「使途不特定の特定収入」に区分して新たに割合を作って消費税相当額を計算します。
(1)と(2)で計算された消費税相当額は合算されて、申告書上、一時的に計算した仕入れ税額控除額を否定する項目として、二次的に納付税額を増加させます。
国が考えた不公平構造の解消です。

まとめ
社会福祉法人に特徴的な業務をピックアップして解説してきました。この記事は私の友人の税理士が複合事業を行う社会福祉法人の監事に就任するに当たって、気を付けなければならない特徴的な会計業務を教えて欲しいと依頼された時に伝えた内容がもとになっています。
これらの業務は、一般事業会社ではほとんどお目にかからない内容ばかりです。
しかし、記事の内容はほんのごく一部で、社会福祉法人の業務を預かる税理士は、このような特殊な論点ばかりに向かい合わなければなりまん。しかし、詳細はあまり知られていない又は知る方法がないという実態があります。
全国的に社会福祉法人にしっかり対応できる税理士の数は不足してると私は痛感しています。
税理士にとって社会福祉法人業務は、理解が困難で、結果的に「労多く報いが少ないクライアント」になってしまっているためかもしれません。しかし、多少でも専門化すれば「労多く」部分は解消できる可能性はあります。
社会福祉法人に関するノウハウを共有することにより、一人でも多く社会福祉法人専門の税理士が増え、社会福祉法人をきちんと支援してくれることを願って止みません。