正しく使えてますか?間違いが多い社会福祉法人会計の勘定科目
筆者は職業柄、たくさんの社会福祉法人の決算書をチェックしてきました。
制度会計において、大勢に影響がないため、見逃されがちな間違いというものがあります。
例えば、費用に未払いが発生した時に、計上していない事は許容しないが、未払金でも未払費用でも流動負債に計上されていれば良いとして、見逃されるような傾向があります。しかし、曖昧な会計処理は誤った分析結果と意思決定を誘発しますので、法人内外の比較可能性の観点で正しく使えるならそれに越したことはありません。
今回は、社会福祉法人会計基準で間違いやすい勘定科目の使い分けについて解説します。
目次
負債編:未払金と未払費用

会計の基礎知識で、企業会計でも社会福祉法人会計でも共通の論点です。
簡単に言うと、未払金は確定債務で金額が確定しています。一方、未払費用は、役務提供は受けているものの締め日などの都合で債務が確定していない債務で見積もり計上ですから金額は未確定です。
例えば、毎月20日締めの翌月10日払いの法人の給与を例にあげます。
3月31日の決算整理を考えてみると、3月21日から3月31日までの給料は役務提供が済んでいますが、締め日前ですので、給与計算が済んでおらず支払債務が確定していないため、見積もり計算により10日分が決算書上未払費用となります。見越し費用と言われるものです。
もし、3月20日迄の支払うべき給与で、名義相違などで振り込みができず未払の状態で3月31日を迎えてしまったら、確定債務ですのでその部分は決算書上未払金となります。
したがって、同一の方の給与でも未払金になるときもあれば、未払費用になるときもあるということになります。
全て未払費用で仕訳しているなど、正しく区別できていない法人があります。
負債編:事業未払金とその他の未払金
社会福祉法人会計独特の論点です。
課長通知の勘定科目の説明では、以下のようにあります。
| 事業未払金:事業活動に伴う費用等の未払債務 |
| その他の未払金:上記以外の未払金(施設整備等未払金を含む) |
事業活動計算書のサービス活動費用は広範囲の科目を包括します。
事業未払金を企業会計の買掛金と同類の概念と説明する方がいますが、買掛金は仕入に特化した債務ですので、事業未払金の方がかなり広い概念になります。
例えば、事務所のコピー用紙を消耗品費として購入した際の未払は、企業会計では買掛金になりませんが、社会福祉法人会計では事業未払金になり得ます。
社会福祉法人会計のその他の未払金は、固定資産の購入など、事業活動以外の投資的活動や財務的活動に対する狭い範囲の未払金と考えれば良いと思います。

資産編:事業未収金と未収金に未収補助金
こちらも社会福祉法人会計独特の論点です。
負債と違い、その他の未収金でなく未収金で、さらに未収補助金が加わり3つになります。
事業未収金と未収金の区別は負債と同じように考えて良く、課長通知の勘定科目の説明では以下となっています。
| 事業未収金:事業収益に対する未収入金 |
| 未収金:事業収益以外の収益に対する未収入金 |
サービス活動収益の相手科目は事業未収金と考え、それ以外の投資活動や財務活動は未収金と考えて良いと思います。しかし例外もあり、それらの範囲内でも補助金の未収は専用の科目を使用します。
| 未収補助金:施設整備、設備整備及び事業に係る補助金等の未収額 |
未収補助金を使う科目は、基本的には3つです。
補助金事業収益、借入金利息補助金収益、施設整備等補助金収益
附属明細書の補助金事業収益明細書に使用する科目と言えば分かりやすいと思います。
実務上の混乱している点があります。社会福祉法人が自治体に公費を請求する際に、事業収益の請求書と補助金収益の請求書が分かれていれば問題がないのすが、自治体の都合により、処遇改善補助金など補助金としての性質を持ちながら、毎月の事業収益と同じ請求書の中で一部として給付される場合があります。 この場合、請求書全体を事業収益として考え、その未収分を事業未収金として計上する法人と、補助金の明細を抜き出して未収補助金として区分して計上する法人に分かれています。
事業収益は非課税、補助金は課税対象外で収益や課税関係の性質が異なりますので、手間はかかりますが、区分できるなら年度末だけでも区分する方が望ましいと言えます。

費用編:事務費と事業費の共通科目
社会福祉法人会計独特の論点です。
「社会福祉法人会計基準の制定に伴う会計処理等に関する運用上の留意事項について」13に以下のような記載があります。
| (2)事務費と事業費の科目の取扱について 「水道光熱費(支出)」、「燃料費(支出)」、「賃借料(支出)」、「保険料(支出)」 については原則、事業費(支出)のみに計上できる。ただし、措置費、保育所運営 費の弾力運用が認められないケースでは、事業費(支出)、事務費(支出)双方に計 上するものとする。 |
これにより、原則としては、事務費に各科目があっても計上はされずに、事業費にすべてが計上されることになります。
この論点で問題になるのは、本部拠点は原則として事務費しか存在しませんのが、それでも事業費に計上するのか?という疑問が生じます。各自治体によって見解の相違がある可能性がありますが、多くの自治体では本部で事業を行っていないなら事務費に計上して差し支えないという見解になっています。

まとめ
(1)流動負債の、未払金と未払費用は債務確定か債務未確定の見積計上かで異なります。
(2)事業未払金は、企業会計の買掛金より広い概念です。
(3)その他の未払金は、固定資産の未払など企業会計より狭い概念です。
(4)収益の未収は、事業未収金と未収金に加え未収補助金が加わり三つです。
(5)事業未収金は、負債同様に売掛金より広い概念です。
(6)補助金事業収益、借入金利息補助金収益、施設整備等補助金収益の補助金事業収益明細に記載する3つの科目の未収は、未収補助金を使用します。
(7)自治体に公費を請求する際に事業収益と補助金収益が混ざっている請求書がありますので、補助金事業等収益明細を含めて要注意です。
(8)水道光熱費など事業費にしか計上できない科目があります。
社会福祉法人の勘定科目は、企業会計に比べ科目数が多いということと、科目の作成が制限されており、自由度が小さいことがあげられます。
実務を行っていると、判断に迷うケースも多々ありますし、指導検査で自治体により異なる見解が示されることもあります。
勘定科目の使用に関しては、客観的に許容される範囲内にあることと、同じ取引は法人内のどの拠点でも同じ科目を使用するということが守られていれば、大きな問題にはなりませんが、法人として一番困るのは、会計監査人や自治体が異なる見解を示し法人全体で統一処理ができなくなってしまう事です。特に指定管理や措置費系施設は要望が強いので困ることが多いです。
実務的には、同一法人内であって同じ取引なのに、拠点ごとの担当者の認識により、科目がバラバラに使用されていることがあり、統一していくのはそれなりの労力が必要です。
近年社会福祉法人は情報開示制度によって、他の社会福祉法人の決算書と比較することができすようになりました。当たり前ですが、経営改善に利用する財務分析は正しい勘定科目の使用が前提となっております。
当事務所は、勘定科目の正しい使用について、マニュアルを作成や職員教育により運用を改善した実績がありますので、勘定科目でお悩みの法人はお気軽にご相談下さい。
