社会福祉法人専門の税理士と一般的な業務を行う税理士の違いを解説
タイトルを見て、「税理士なら誰でも一緒なのでは?」
このような疑問をお持ちの方もいらっしゃると思います。この疑問は、医者が診療科目によって担当が分かれていることに似ています。
両者とも、法的には全ての業務を行うことができますが、実際は専門分野ごとに分業化されています。
今回はその違いの理由を皆さんに分かりやすく解説したいと思います。
目次
前提となる税理士の登録根拠と特徴
税理士になるためには、税理士登録をしなければなりません。あまり知られていませんが、その登録根拠は異なり、各々特徴があります。
登録根拠
(1)税理士試験で必要な科目を全て合格する。(税理士試験に合格しています。)
(2)税務署に職員として勤務し、税理士試験の全部又は一部を免除申請する。(税理士試験を受験する方もいますが、年数によっては税理士試験に合格しなくても可能です。)
(3)大学院で修士論文を書き、国税庁の論文審査を受けて、税理士試験の一部の免除申請をする。(現在は以前と異なり、税理士試験に必ず合格する必要があります。)
(4)公認会計士が税理士登録する。(税理士試験に合格しなくても可能です。)
(5)弁護士が税理士登録する。(税理士試験に合格しなくても可能です。)
特徴
ほどんどの税理士は上記の登録根拠となり、登録後にそれぞれ特徴が出ます。
(1)は、会計や税法の知識が正確に身についています。
(2)は、税務署の実務に精通しています。
(3)は、税理士試験による会計や税法の知識に加え、学説や判例などの研究をしています。唯一と言って良いくらい、社会福祉法人会計や税務に関する研究が本人の意思で可能です。
(4)は、監査能力があり、法定監査や内部統制に詳しいです。
(5)は、行政法に詳しく、税務訴訟手続きや民事訴訟もできます。
これらの特徴を踏まえて、税理士に何をしてもらいたいのか?が税理士を見極めるポイントになります。
社会福祉法人専門の税理士と一般的な業務を行う税理士の決定的な違い3つ
上記で、まず前提となる税理士の登録根拠が異なる事をご紹介いたしました。
それらを踏まえ今回の本題である社会福祉法人専門の税理士と一般の税理士のスキルの違いを3つほど簡単に解説してまいります。
1.会計基準の知識と経験が違う
社会福祉法人は会計基準が企業会計とは異なります。企業会計は企業会計原則といってルールによって処理しますが、社会福祉法人会計基準は政令で強制力のある法令です。
例えば、法人内の内部取引は企業会計では管理会計といって、開示義務がなく、法人が自主的に行う領域ですが、社会福祉法人は制度会計として定められ、開示義務があり、任意性がありません。
決算書も企業会計より帳票数が多く、知らなければならないルールが企業会計より多いという違いがあります。
社会福祉法人専門の税理士はこの知識と実務経験が違います。
2.公の支配下規制の知識と経験が違う
株式会社は自分で売り上げを稼ぎますが、社会福祉法人は、補助金や助成金などたくさんの公金が入っています。
実は、民間の福祉法人に公金を投入することは憲法89条で禁止されていることをご存じでしょうか?この禁止規定に抵触させないため、国は社会福祉法人を公の支配下(管理下)に置くことにしました。
したがって、社会福祉法人は民間法人でありながら、所轄官庁の強い管理を受け、株式会社より多くの規制を受けながら運営をしなければならないという違いがあります。
社会福祉法人専門の税理士はこの知識と実務経験が違います。
3.税務上の知識と経験が違う
法人税法では、社会福祉法人は公益法人等といわれ、収益事業のみ課税されます。しかし、社会福祉法の収益事業と法人税法の収益事業はイコール関係になく、どの部分が課税かという課税領域の特定が難しいという特徴があります。
また、消費税法も社会福祉法人が行う社会福祉事業に係る事業は原則的には非課税ですが、その非課税そのものの特定に加え、社会福祉事業でなくても社会福祉事業に類する事業として非課税とされるものもあり、株式会社に比べ、課税領域の特定が難しいという違いがあります。
社会福祉法人専門の税理士はこの知識と実務経験が違います。
社会福祉法人専門の特化した税理士が生まれる理由と難しさ
税理士になるまでは、いわゆる一般税務と言って、株式会社や個人の税務申告など日本全国共通の業務を行うことが想定されています。
しかし、税理士になると途端に、「税理士として生き残っていくためには、特化して付加価値をつけよ」と言われます。そして、それが特化の生まれる主たる理由でもあるのです。
さらに、特化といっても様々です。
例えば、相続税に特化する会計事務所がありますが、上記の登録の過程で徐々に相続税に絞ることが可能です。「一般税務⇔相続」という形が過程で成立可能です。
しかし、上記の過程で特化できない領域もあります。
社会福祉法人会計はその典型で、その過程ではほどんど触れることができません。したがって、もし特化を望むなら、一般的なスキルは実務で独自に身に着けるしかないですし、特定の論点を研究したいなら大学院に行くしかありません。
まとめ

社会福祉法人専門税理士と一般的な税理士の違いについて解説してきました。社会福祉法人会計や税務のスキルについて、税理士の登録過程でほとんど身に付かないなら「一般税務で開業してから実務で独自に社会福祉法人に関する知識を身に着ける」という形にならざるを得ません。
現在、社会福祉法人に精通している税理士は、一般税務で開業して、たまたま社会福祉法人のクライアントに出会い、長い年月をかけて少しずつ独自で知識を身に着けた方が多いと思います。
稀に、社会福祉法人の事務長や経理部長経験者が税理士試験に合格して、税理士になる方もいますし、大学院で研究した税理士もいますが例外です。
では、「一般の税理士が社会福祉法人の業務ができるか?」という質問に対しては、制度上はできますが、「現実的にはできないと思った方が良い」というのが個人的な見解です。経験上トラブルが散見されるためです。
社会福祉法人の会計や税務の業務は、社会福祉法人の取り扱いをホームページや事務所案内で標榜しており、件数と年数の実績が相当数ある税理士にお願いするのが賢明でしょう。
もし、どうしても一般的な税理士と契約する場合は、社会福祉法人に精通した税理士のセカンドオピニオンを使って大局の判断だけは見誤らないようにすることをお勧めします。
社会福祉法人専門の税理士と一般の税理士の違いを解説してきました。税理士も医者も「餅は餅屋」あとは、社会福祉法人である皆さんが、ご希望の業務に対応できる税理士を探す際にお役に立てれば幸いです。